|
カテゴリ:プラモデル・艦艇
神風の攻撃で、艦首に浮力が発生したホークビルは、乗員の操作に反して、浮上しようとしていました。 「もはや、浮上砲撃戦をする以外にないか・・・」 今度は、ホークビル艦長F・ワース・スキャンランド少佐が、覚悟を決める番でした。 潜水艦の武装は、魚雷だけでなく、主砲(ホークビルの場合は駆逐艦クラスの口径の、5インチ単装砲1門)や、対空機銃なども装備されています。 しかし、潜水艦の強みは、姿の見えない海の中に潜んで、敵艦を襲撃することにあります。浮上して水上艦と撃ち合って、勝利した潜水艦は1隻もありません。 潜水艦の大砲は、非武装の敵商船を攻撃したり、夜間こっそりと敵泊地や飛行場などに接近して、嫌がらせの砲撃をする位が関の山なのです。 やがてホークビルは海面に飛び出しました。その瞬間、スキャンランドの脳裏に、奇策がひらめきました。 「ベント全開!」 その指示に、乗員たちはとっさに反応できず、顔を見合わせました。 「復唱はどうした!」 ベント弁とは、海水をバラストタンクから空気を排出するための弁です。ここを開くと海水がバラストタンクに溜まり、潜水するのです。これを全開にすると言うのは、一見なんでもないように見えますが、実は大問題です。 と言うのも当時の潜水艦は、せいぜい150m位しか潜れません(ホークビルのパラオ級は120mが安全深度です)。安全深度を超えれば、水圧で艦が歪んで故障し、さらに深く潜れば、水圧で押しつぶされて沈んでしまいます。 ベントを全開にすると、沈む力が大きくなりすぎて、コントロールを失って、一気に安全深度を上回ってしまう可能性があるのです。そのため緊急を要する急速潜航の場合でも、ベントを全開にすることはありません。 しかしスキャンランドはその禁じ手をやれと命じたのです。部下たちがとっさに反応できなかったのも無理ありません。 プロテンコール沖は水深が浅いので、一気に沈んでも圧壊することはないと、スキャンランドは考えたのです。 この目論見は成功しました。膨大な海水が注入されたため、浮力はなくなり、ホークビルは一気に海底に沈んでいきました。 「ベント弁閉鎖! 衝撃に備えよ!」 ホークビルは、海底に突っ込み、沈座しました。 「被害状況を報告せよ!」 「前部魚雷発射管室、浸水!」 次々に届く被害報告に、スキャンランドは心の中で舌打ちしました。 ダメージは大きく、当面身動きはできそうもありません。しかし、このまま沈没する種類の損傷でないのが救いでした。 「音を立てるな!」 頭上から、ソナー探知音が響き、ホークビルの乗員たちは身を固くしました。
時間は少し戻って、今度は神風です。 爆雷を投下した神風は、すぐに進路を変針して、ソナーを降ろすよう、神風艦長春日均少佐が指示していた時、後ろから機銃の発射音が響きました。 振り返った春日が見たのは、クジラがジャンプするかのように海面に飛び出したホークビルの姿でした。 戦闘配置についていた対空機銃座が、敵潜が浮上したのを見て、独自判断で射撃を開始したのです。後部の主砲12センチ砲も、砲弾を装填して、慌ただしく旋回し始めました。 しかし、12センチ砲が火を噴くより早く敵潜は沈み、沈没場所から重油や艦の破片が浮かんできました。 「やったぞ!」 幾多の戦闘で、どれだけの僚艦が敵潜に沈められたことか、乗員たちが手をたたいて喜びました。 春日も一瞬だけ喜んだものの、すぐに気を取り直しました。敵潜が沈んだのか、それとも沈没を装って死んだふりをしているのか、油断は禁物だからです。 しかし、ソナーでは敵潜と判断できる反響音は得られず、先にシャム湾を横断している船団が、敵潜水艦の待ち伏せエリアに接近しつつありました。護衛は神風1隻しかいない以上、これ以上この海域に留まっているわけにはいきません。 7月18日19時頃、神風は敵潜を撃沈確実と判断して、海域を離れていきました。
一方、プロテンコール沖、約33メートルの海底では、ホークビルの乗員の必死の作業が続いていました。 浸水を止め、艦の修理をして浮上できるようしなければ、海底でそのまま鉄の棺桶になってしまうからです。しかし敵艦が上にいる以上、大きな音を立てることも出来ません。 懐中電灯と工具を持った乗員たちが、足音を偲ばせながら行き来しています。 神風のソナー音が聞こえる度に、「最後の時が来た」と、ホークビルの乗員は首をすくめました。 ホークビルは聴音機を破壊されてしまっていたため、海上の敵艦を把握することが出来なくなっていました。 そのため19時頃、神風がプロテンコール沖を去りましたが、その事に気がついたのは21時過ぎ、ソナー音が無くなってから2時間以上経ってからでした。 しかし、二度も痛い目を見たスキャンランドは慎重でした。 彼はさらに2時間待ち、その後潜望鏡深度まで浮上を命じました。そして潜望鏡で丹念に海上を確認し、敵艦がいないことを確認したホークビルが浮上したのは、日付が変わって19日0時30分頃のことでした。 ホークビルの被害は甚大でした。ジャイロコンパス、温度計、減速装置が破壊され、無線装置や音響兵器も使い物にならなくなりました。これ以上の戦闘は無理でした。 「針路を北へとれ。スービック湾(フィリピン・ルソン島の泊地。米軍の潜水艦修理工廠がありました)へ向かう」 こうしてホークビルは戦場を離脱していきました。 ホークビルの戦いは終わりましたが、船団を護衛する神風の戦いは終わっていません。 船団に合流した神風は、いよいよシャム湾横断を開始しました。 潜水艦を探知する度に、神風は前へ後ろへと走り回って撃退し、20日、船団は無事にハッチェン港(現在のカンボジア)に到着しました。 往路の航海で、神風は、ホークビルの襲撃を含め、米潜水艦の襲撃5回、魚雷15本を回避して全ての敵潜を撃退しました。そして復路でも、米潜水艦4隻の襲撃を撃退し、来襲した敵爆撃機2機を撃墜して、船団は7月末、シンガポールに無事到着し、神風最後の戦闘は終わりました。 そして半月後の8月15日、戦争は終わりました。 次回は、神風とホークビルのその後、そして春日、スキャンランド両艦長の秘話(実はその話が一番書きたかったので、プラモ作ったんです・笑)に触れたいと思います。 ふう、予定どおり戦いの所は、無事終了出来ました♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[プラモデル・艦艇] カテゴリの最新記事
|