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2014.09.10
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カテゴリ:プラモデル・艦艇

伊168.jpg

それではミッドウェー海戦における伊168の動きを、艦長の田辺彌八少佐(ミッドウェー海戦当時。終戦時は中佐)の証言にふれながら見ていきたいと思います。

見ていくと、警戒厳重な敵艦隊に潜水艦が肉薄して攻撃することが、いかに困難かつ無謀なことであるかがうかがえます。

昭和17(1942)年5月、ミッドウェー攻略作戦発動に伴い、田辺艦長の指揮する伊168も、ミッドウェー沖に出撃が命じられました。

伊168の任務は、ミッドウェー島の偵察で、どの程度の戦力が展開されているか、どのような動向になっているかを、本隊に通報することでした。

5月23日に呉を出港した伊168は、6月2日、無事に同島沖に到着し、偵察活動を開始しました。

昼は約5千メートルまで島に接近し、潜望鏡を出して様子を窺い、夜になると浮上して2~3万メートル離れた沖合に充電しながら(当時の潜水艦は、潜航中は酸素を燃焼させるエンジンを動かすことが出来ず、電池に充電した電力で航行します。充電は浮上中エンジンを動かしながらチャージします)移動して、報告電を打ち、またミッドウェー島に接近するという作業を繰り返していました。

そして3日後、ミッドウェー海戦を迎えます。

「5日になったら、我が軍の戦爆連合(戦闘機と爆撃機が編隊を組んで攻撃すること)がやってきましたよ。潜望鏡いっぱいに火炎と黒煙が見えましてね。胸のすく攻撃でした。あとは重巡戦隊が来て(ミッドウェー島を)砲撃して、占領部隊が上陸すれば、この戦いはケリがつくと信じてましたね」

水中から見るミッドウェーの戦闘は、絶好の見物ポイントだったようです。この時彼は別段緊張することなく、戦いの推移を見ていました。

「ところが、航空隊の第一撃が終わった後、当然おこなわれるべき第二撃がこないんです。そのうちこっちのアンテナに、味方空母被爆の報告が飛び込んできたんです」

この通信に、田辺は困ったことになったと思ったそうです。と言うのも出撃前、「伊168は、爾後の燃料補給はミッドウェー島にておこなうべし。だから思う存分暴れて良し」と訓示されていたからです。そのためあまり燃料に気を使っていなかったのです。

開戦以来、破竹の進撃に慢心していた日本海軍上層部は、戦う前からミッドウェー島の占領を織り込んで皮算用していたのです。

しかし機動部隊が大損害を受けたなら、島の攻略は失敗です。そのため補給の話も吹き飛んでしまいましたから、一転して残りの燃料を気にしなくてはいけなくなったのです(伊168潜型(海大VI型a)は、航続距離が大きくありません)

それだけでも頭が痛いのに、伊168に空母4隻を喪失した報復に、「ミッドウェー島を砲撃せよ」という命令が届きました。「潜水艦に砲撃させるなんて、上層部は血迷った感じだなと、田辺は唖然としたそうです。

6月5日22時半頃(日時は全部日本標準時です)、命令どおりミッドウェー島に接近した伊168は、飛行場を狙って、主砲の10cm砲で砲撃をおこないました。

6、7発撃ったものの、無事飛行場に命中したか確認できず、まもなく島から駆潜艇(潜水艦の駆逐を任務とした艦艇)が出てきたため、潜航して這々の体で逃げ出す羽目になりました。

約半日後、ようやく敵駆潜艇の追撃を振り切った伊168が、潜望鏡と短波アンテナを出したところ、新たな命令が出ていることを知りました。それは、

「我が海軍航空隊の攻撃により、ヨークタウン型空母一隻、ミッドウェー北北東150海里に大破漂流しつつあり。伊168は直ちにそれを追撃、撃沈すべし」

ミッドウェー海戦の敗北後、日本艦隊は順次撤退を開始していましたが、同海域を偵察(米機動部隊が追撃してくる可能性もあったため、その動向を確認していました)していた水上偵察機の1機(重巡筑摩の偵察機)が、前日、日本空母飛龍の攻撃を受けて大破した米空母ヨークタウンを発見したのです。

今から海戦の敗北を挽回することは不可能でしたが、一矢報いるためにヨークタウンにとどめを刺さねばと聯合艦隊司令部は考えたのです。

そのため一番近くにいる(と考えられていた)伊168に、命令が下されたのです。

命令を受領した田辺艦長ですが、時間を見て難しい顔をしました。

命令が発令されたのは6日午前6時45分でしたが(しかし内容を敵にわからないよう暗号化して、伊168に発信された時刻は7時45分でした。同時の通信システムでは1時間のタイムラグは当たり前、むしろ早いほうでした)、命令が発信された頃、伊168は敵駆潜艇に追い回される最中でした。

水上艦とは異なり、潜水艦は潜望鏡とアンテナを出している時か、浮上している時しか通信の送受信が出来ないため、かなり時間が前の命令になってしまったのです。

さらに命令を受信したからと、すぐに返信を送ることも出来ません。伊168は依然敵地にあり、通信を安易におこなったりすれば、たちまち敵に傍受されて敵がやってきてしまうからです。

そんな事情のため、伊168が命令受領の返信を返したのは、6日16時30分頃になってからでした。

「本日終始、敵哨戒艇の制圧を受けたため、受信遅れたり。ただちに"トスオ18"(ミッドウェー北北東150海里を指す日本海軍の暗号チャート符号)に向かう。(7日)0100着予定」

燃料に余裕はありませんでしたが、時間的な余裕の方がよりないため、田辺は16ノットの水上航行で目標地点を向けて、直線的に艦を進めました。

懸念すべき点は、命令発令時間から半日以上経過しているため、目標が現地点に今もいるかという点でした。

当然敵も動いています。すでに米空母は曳航されて指定地点にいないかも知れないのです。また物理的に発見できるかも疑問でした。目標地点はわかっているといってもそこは広い海域です。それを1隻の潜水艦で捜索して見つけなくてはいけないのです(潜水艦は舷側が低く、艦橋も小さいため、この手の捜索活動は実は苦手です)。何せ日本の潜水艦はレーダーがないので、見張り員の目で見つけないといけないのです。

さらに無事発見した場合は、今度は有利な体勢で戦闘に持ち込まなければなりません。敵には何隻もの護衛がついているでしょうから、その警戒網をかいくぐって空母を仕留め、そして危地を脱しなくてはならないのです。

「考え出すとキリがないんです。不安材料はいくらでも出てくるんです。けれどそのひとつひとつを想定して、対策を考えておかなければなりません。私は一睡もせずに戦策に没頭しました」

ふと乗員たちが気になった田辺は、足音をしのばせて艦内を一周し、そして彼は安堵しました。

「白鉢巻きをしている者、ひそひそ話している者、ぐっすり眠っている者など、乗員全てが日頃の訓練時のように落ち着き払っているんです。冗談さえ聞こえてくるほどなんです。これから死地に赴くといったエキセントリックな表情は全く見られないんです。それで私は、よし、これならやれると自信を持ちましたね」

そして7日午前1時頃、伊168は"トスオ18"に到着しました。ミッドウェー北北東150海里の海域は、うっすらと日が昇り始めていました。見張り員は総出で海面を監視しました。

捜索開始からまもなく、「前方に黒点!」という声が飛びました。敵艦隊らしき影は距離は1万3千メートル先にいました。

「総員戦闘配備!」

敵艦隊は、伊168から見て東側にいて、登りはじめた太陽の中に、くっきりとその姿を浮かび上がらせ始めていました。それに対し伊168は、米艦隊から見て西側にいて夜の闇に紛れており、襲撃者の存在に気がついていませんでした。

こうして、伊168のミッドウェー海戦は始まりました。






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Last updated  2014.09.10 22:48:23
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