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2014.09.12
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カテゴリ:プラモデル・艦艇

伊168 1.jpg

ここで米空母ヨークタウンの状態について、簡単に触れてみたいと思います。

僚艦エンタープライズ、ホーネットと共に、日本空母3隻(赤城、加賀、蒼龍)を被爆、炎上させたヨークタウンですが、生き残った空母飛龍の航空隊の反撃で、飛行甲板に爆弾数発、左舷に魚雷2本の命中を受けました。

この被弾で機関部を破壊されたヨークタウンは、動力と電力を失い、左舷に20度傾斜したまま航行不能になりました。

しかし徹底した艦内可燃物の除去と、ダメージコントロール対策のおかげで、身動きは取れないものの沈没する気配はありませんでした。

そこで米海軍は、目と鼻の先にあるハワイまでヨークタウンを曳航することにしました(逆に日本側は、本土まで距離が遠くも敵地での曳航作業が難しいため、被弾した空母4隻を自沈処分せざるをえなくなりました)。昭和17(1942)年当時、太平洋で使用できる航空母艦はヨークタウンを含めて3隻しかいなかったので、可能なら助けたかったのです。

護衛の駆逐艦数隻と、曳航するための巡洋艦を残し、曳航作業が続けられていました。
同時に修理の方も進められており、伊168がヨークタウンを見つけた時、1基のボイラーが修復され、最大4ノット程度なら自力航行できるようになっていました。

「敵の空母は、だんだん明るくなる東の空を背景にして、くっきりと浮かび上がっていました。付近には警戒艦らしき小さな黒影が数点見えましたね。見つけられては一大事です。そこで潜航して潜ったんです。いよいよ食うか食われるかです」

田辺彌八艦長は潜望鏡をあげると、米艦隊の動きを慎重に観察しました。そして米空母は間違いなくハワイに向かっていること(速度は2ノットと判断しています)、護衛の数は7隻と確認しました。

つまり伊168は、7隻の護衛をかいくぐって米空母を撃沈しなくてはならないのです。これがいかに難事であるかはいうまでもありません。

田辺は水中速度を3ノットに命じ(水中で高速を出すとあっという間にバッテリーが上がってしまいます。また日本の潜水艦は機関の音が大きく、速度を出すとドラムを叩くような派手な音が出てしまうため、それを押さえる意味もあります) 、時折り潜望鏡を出して敵針路や速度を確認しながら、ゆっくりと近づいていきました。

やがて敵艦のスクリュー音や水中探査音が、聴音のレシーバーを介さずとも聞こえるようになってきました。つまり伊168は敵の輪形陣の中に飛び込んだのです。

「爆雷防御!」

大きな音を立てないよう気をつけながら、艦内の防水扉が閉められ、懐中電灯や酸素マスクが準備されました。

「最初は、敵の左舷側から襲撃しようと行動したんですが、この速度では左舷側に出られないので、右舷側から襲撃することにしましたね。作図と聴音を頼りに、無観測進出(つまり潜望鏡などで直接観測しないで)したんです。
頭上を何度も敵駆逐艦が通り過ぎるんですが、さすがにヒヤヒヤしましたね。敵の探査音はあっちからもこっちからも聞こえてくる。警戒は厳重でしたね」

そして敵空母発見から約8時間後の6月7日9時37分、確認のため田辺は潜望鏡を挙げました。そして目に映る光景に息をのみました。

空母は伊168の真っ正面に、潜望鏡いっぱいの大きさに写っていました。距離は約500メートル、艦上で作業をしている米兵の顔までわかるほどだったのです。

「不味い、近づきすぎた」

この距離から魚雷を発射したら、魚雷は空母の艦底をすり抜けていってしまうでしょう(日本の魚雷は高速で遠距離まで届く優れたものでしたが(参考までに日本軍の魚雷は約42ノット、米軍の魚雷は約28ノットでした)、近距離だと雷撃深度になる前にかなりの距離を走行してしまうので当たらないのです)。800~1500メートルの距離から雷撃するのが理想なのです。雷撃位置は絶好の角度なのに、距離があわない、もどかしい状態なのです。 その場で待っていれば問題ないよう思うかも知れませんが、水の中にいる潜水艦は、海流の流れで微妙に位置がずれてしまうので、ヘリコプターのようにホバリング出来ないのです。

ここで彼は突拍子もない命令をします。

「360度回頭!」

360度、つまりその場で一周しろと命じたのです。これを聞いた部下たちは一様に目を丸くしました。この事に戸惑ったのは戦後にこの事実を知った米軍もでした。米海軍の関係者は何度も田辺を呼び出して、「何故360度回頭したのか?」と尋ねたそうです。

これに対する田辺の答えはひと言、 「理屈抜きの思いつき」だそうです。

「私からすれば、艦首の4本の魚雷で仕留めなければなりません。命中させるのが目的なのですから、いささかの疑問を持たずに360度回頭やったのです。
あとで沈着だとかずいぶん褒められましたけど、その時は沈着というよりも、ひとつのひらめきですね」

頭上を米艦がスクリュー音を響かせながら次々と通り過ぎていきます。あちこちから水中探査音も聞こえてきます。そんな中、伊168はゆっくりと旋回を続けました。

そして一周した瞬間、あれほど騒がしく鳴り響いていた探査音がピタリと止まりました。

「潜望鏡上げ!」

潜望鏡に取り付いた田辺は、素早く海上を見渡しました。ヨークタウンは伊168に対して側面を晒したまま目の前にいました。距離は約1200メートル、理想的な雷撃距離でした。

「潜望鏡降ろせ! 魚雷発射準備! (魚雷)針路調整開角2度! 1番2番発射の3秒後に3番4番を発射!」

この魚雷発止や方法も、日米の関係者から質問攻めされることになります。

普通潜水艦が雷撃をおこなう場合、はずれる可能性を考慮して、扇形に広がっていくよう発射するのが普通なのです。何せ当時の魚雷は、まっすぐ進むだけで、今の魚雷のようにスクリュー音や船体の磁気に反応して、自分から追いかけていくものではないのです。

さらに4本の魚雷を一斉発射せず、2本ずつ時間差をつけて重ね撃ちしています。この方法も珍しいものでした(田辺は、重ね撃ちした理由については、「最初に魚雷が開けた穴に、後続の魚雷が飛び込んで、さらに傷を深くしようと考えた」と答えています)

「テーッ(「魚雷発射、撃て」の意味。)

田辺の号令に1番2番発射管の魚雷が発射されました。さらに3秒後、3番4番発射管の魚雷が発射されました。

艦長も乗員も、ストップウォッチの秒針を固唾をのんで見守りました。やがて魚雷の命中時間となると、爆発音が2つ、その一瞬後に2つの爆発音が鳴り響き、艦内は「4本全部命中だ!」と喜色に沸き立ちました。

4つの爆発音を聞いたため、田辺も伊168の乗員たちも、4本とも魚雷が命中したと思っていましたが、実際には異なります。

魚雷1本がはずれ、2本がヨークタウンに命中し、1本がヨークタウンに横付けして140名の救援隊を送り込んでいた駆逐艦ハムマンに命中しました。

魚雷命中の一瞬後に弾火薬庫に引火したハムマンは、大爆発を起こして沈没しました(たぶん4つの爆発音の内2つは、ハムマンの誘爆の音)。ちなみに田辺はハムマンの存在には気がついておらず、戦後米軍関係者から聞かされて、「儲けものをしたわい、と思いました」と回想しています。

そしてヨークタウンは、大爆発を起こして航行不能になりました。機関室は再び破壊され、右舷側からの大浸水が止まらず、曳航は不可能と判断され、総員退去が命じられました。そして翌6月8日早朝、沈没しました。

こうして伊168は、任務を無事達成しました。しかし大変なのはこれからなのです。

次は米軍の執拗な攻撃に晒される伊168の苦しい戦いに、触れてみたいと思います。






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Last updated  2014.09.16 22:00:23
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