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カテゴリ:プラモデル・艦艇
5月26日21時、舵の破損でビスマルクの命脈は絶たれました。 リンデマン艦長は、ビスマルクの左右の機関出力を変えることで、艦をコントロールすることを試みますが(小型の艦なら、多少コントロールできます)、5万トンを超すビスマルクを制御するのは無理でした。 「もうおしまいだ」 艦内の士気は完全に低下しきっていました。ビスマルクの乗員は、出撃以来の連日の戦闘で疲れ切っていた上に、あと一歩で逃げられるというところでの舵損傷です。彼らは天国から地獄に突き落とされたのです。すでにフッド轟沈の興奮も、すでに過去のものでした。 そしてビスマルクの最後の夜は、穏やかならざる夜でした。 ソードフィッシュ攻撃隊が去った21時30分、軽巡洋艦シェフィールドが接近してきたため(ビスマルクの速度が低下していることに気がつくのが遅れ、射程内に入り込んでしまったのです)、ビスマルクは主砲を斉射、砲弾は命中しませんでしたが、至近弾でシェルフィードは損傷し、大慌てで逃げ出しました。 シェルフィードは居なくなりましたが、すぐに新手のイギリス艦が現れました。22時頃、ヴァイアン大佐率いる第4駆逐隊(駆逐艦コサック、マオリ、シーク、ズールー、ピオルン)の5隻がビスマルクを補足、接近してきました。 22時40分頃、英駆逐艦に気がついたビスマルクは砲撃しますが、夜間で射撃用レーダーを持たない光学射撃では、小型で高速、舷側が低い駆逐艦に命中させることは容易ではなく、撃沈することは出来ませんでした。 一方のヴァイアン大佐も、意外に勘の良いビスマルクに、全艦で統制魚雷戦をおこなうのは無理と考え(当時の駆逐艦は、レーダーは搭載されていません)、各艦長の判断で、接近攻撃を命じました。 日付が変わった27日1時を回った頃から夜が明ける6時頃までの間、第4駆逐隊は照明弾を打ち上げ、雷撃を敢行しました。 ビスマルクは、英駆逐艦の接近を察知するたびに砲撃しましたが戦果がなく(戦果が無いのはイギリス側も同じ)、魚雷を回避しようと無理に速度を増速したため(せざるを得なかったため)破口部が拡大して艦内の浸水が増えてしまい、操艦は一層困難になりました。 加えて、一晩中引きずり回された乗員たちは、一睡も休むことも出来ず、心身を一層消耗しました。 英駆逐艦の襲撃が続く中、リュッチェンス中将は、ベルリンに最後の報告を送っています。報告書はビスマルクのおかれた絶望的な状況が語られ、「全乗員は一丸となって、最後の一発を撃ち尽くすまで戦うだろう」という一文でしめられました。 ヒトラー総統からは「全ドイツ国民は、諸君らと共にある」という励ましのメッセージが届けられました。 助ける手段が無い以上、激励の言葉しか送れなかった訳ですが、ヒトラーの言葉は、絶望の淵にあるビスマルク乗員たちの士気を、わずかながら回復される効果はありました。 27日8時半頃、ビスマルクは北からイギリス艦隊が向かってくるのを発見しました。 英本国艦隊司令官トーヴィ大将の乗る戦艦キングジョージ5世、戦艦ロドネイ、重巡洋艦ノーフォークとドーセットシャーからなるビスマルク追撃艦隊でした。 攻撃は、レーダーでビスマルクより先に、相手をとらえていたイギリス艦隊の方が先でした。 8時47分、ロドネイが砲撃を開始しました。ロドネイの16インチ砲(40.6センチ砲)は、ビスマルクの38cm砲より威力は上です。 ロドネイは着実に誤差を修正してビスマルクを照準にとらえていくのに対して、ビスマルクの反撃は鈍いものでした。 イギリス側が戦い前、休眠をしっかりとって準備万端整えていたのに対し、ビスマルクの乗員たちは不眠不休で疲労困憊でした。加えて速度を上げることも、左右に舵を切って回避することも出来ません。デンマーク海峡の時とは異なり、今度はハンデが大きすぎました。 数斉射後、ビスマルクの船体中央部に16インチ砲弾が命中し、火災が発生しました。さらにキングジョージ5世、次いでノーフォークとドーセットシャーも射撃を開始し、ビスマルクは、さながらサンドバックの状態になります。 9時頃、ロドネイの16インチ砲弾が前部甲板に命中し、ビスマルクの前部砲塔(A砲塔とB砲塔)を制御する電気駆動部を破壊しました。 主砲は手動でも操作・砲撃可能ですが、人力で1トン近い重量のある砲弾を揚弾機でひきあげて主砲に装填し、2千トンもの重量がある砲塔を旋回させて、素早く砲撃し続ける事はほぼ不可能です。実質的に前部砲塔は戦闘不能となりました(ただし沈没する寸前まで、人力で射撃を継続していきます)。 さらに、ノーフォークの8インチ砲弾がビスマルク前部艦橋の光学測距儀に命中し破壊しました。これにより、ビスマルクは敵の位置を正確に計る目を失いました。 リンデマン艦長は、後部射撃指揮所に射撃管制を命じましたが、こちらも間もなく砲撃で破壊され、砲撃は出来るものの、まぐれ当たりしか望めなくなりました。 4隻のイギリス艦の集中砲火で、ビスマルクの上部構造物はズタズタにされていきました。 キングジョージ5世の14インチ砲弾がC砲塔を直撃破壊しました。残るD砲塔も、ロドネイの砲弾が命中すると、火災が発生して使用不能となりました。 「D砲塔下の弾火薬庫に緊急注水!」 このままでは火が弾火薬庫に回って、フッドのように誘爆してしまいます。それを防ぐための命令でした。 その声が、乗員たちが聞いたリンデマン艦長の最後の声でした。まもなく艦橋に砲弾が命中し、艦隊司令官リュッチェンス中将、ビスマルク艦長リンデマン大佐は戦死し、司令部は壊滅しました(ただし次のブログで書きますが、リンデマン艦長は、この時戦死していなかったという説もあります)。 いよいよ次回は、ビスマルクの最後です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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