運命の男と女
□運命の男と女□ヘパイトスがもっとも美しい女神を磨きだし、ヘパイトスがもっとも勇敢な軍神を作った。その意味で彼の自尊心は満たされていた。アフロディテを妻に持っているが、彼女に愛されているかということがまったく気にならなかったし、愛されたいとも願ったことが無い。自分の手によって彼女が身もだえし、悦ぶのを見ることが彼を幸福にした。彼にとっては母であるヘラが永遠のマドンナであった。母にこそ愛されたい。アフロディテの胸で眠るときは、ヘラの胸に抱かれている夢を見るのだった。妻は時折チョコレートのような香りのするときがある。「男を欲しがっている」しかも、そういう時女は目で恋をする。アフロディテも夫を「愛する」対象として、まったく期待していなかった。ヘパイトスとアフロディテは不思議な愛情でつながった夫婦であった。ぜひとも、妻の希望を叶えたい。ヘパイトスは本気でそう考えていた。しかし・・・しかし、彼女が選ぶ男はヘパイトスの気に入らなかった。もっとも彼女は夫には隠していてバレているとはちっとも気づかないのだが。なぜ彼女の浮気がわかるのか?ちょっとした体の動かし方や、しぐさに妻を抱いた男の癖が出る。ん?と夫は思うのだ。アレースが現れたとき、「来るべき者が来た」と感じたのはアフロディテに捧げる男が来た、という意味であった。しかも、自分の分身。自分の代わりに彼が「男の中の男」を表現してくれる。チョコレートの香りを発する妻にアレースを引き合わせる。それは、ヘパイトスとアフロディテの寝室だ。夫の見ている前で妻は情を働かなくてはならない。ヘパイトスは静かにその計画を繰り返し頭に描きつつ、つぶやいた。「問題はアレースだ。」戦争が一段落して新型の剣を依頼するためにアレースがやってきた。どんな剣が必要かを説明するとき、彼は饒舌になった。生き生きと喜びが隠し切れない不良少年のようだ。熱心に聞き入りながら、ヘパイトスが言ったことは、「なるほど。そういう剣ならばうちに見本があるから、明日の8時にうちにおいで。見せてあげよう。いいか。そうそう人には見せない代物だ。初めてあんたに見せるんだよ。心して来てくれ。」アレースは興奮を抑えられないという表情でヘパイトスの工房を出た。二三歩、歩いたところで危うく人にぶつかりそうになったが、反射神経の行き届いたアレースは衝突を免れた。目の前には女。しかも、この世のものとは思われぬ美しい女であった。それがヘパイトスの妻であることはすぐに理解した。光輝に包まれたオーラのために身動きができなくなったアレースの一部分が熱くジンジンとするのがわかる。ムラムラと何かが腹の中でうごめく。彼女も一瞬アレースの顔を注視したが、飛びのくように工房へと消えた。彼女がそうでもしなかったら、アレースは力ずくでおかしていたかもしれない。アフロディテの光輝の余韻に浸りながら、いつにない気持ちをアレースは感じていた。それがなんだか、説明のしようも無いのだが・・・「彼女を抱きたい」というキモチのまま、アレースは夢の中のアフロディテを抱きしめた。夢の中ですら両手で女を抱きしめるなんてことは始めてのことだった。夜になり、食事を済ませたヘパイトスとアフロディテは早々にベッドにもぐりこんだ。いつものことだ。女はどうやら満腹に誘惑されるらしい。ヘパイトスは彼女の体をなでながら、昼間のことをあれやこれやアフロディテに話した。今日は火がいつもより赤かったこと久しぶりに使うノミが錆びて特に磨きをかけたこと、そうだそうだアレースが来たこと・・・そのとき妻が口を挟んだアレース?(初恋のヘルメスに似たあの方?)そういったときの目の光をヘパイトスが見逃すはずも無い。んんん?わが姫はヤツがお気に入りかな???「ャだわ」アフロディテはかわした。んん?ヤツに抱かれたいか?「いャ・・ん・・」アフロディテはヘパイトスにすがりつきながら背中を反らせた。つづく人気ブログランキングへ[おしらせ]------------------男の恋愛ベーシック『BOY’S LOVE RULES』の好評を受け4月リニューアル版発売の運びとなりました。発売と同時に旧版の販売を中止させていただきます。 『BOY’S LOVE RULES』