天翔ける鳥船

プリンセスコミックス
「天つ雷鳴ー大津皇子・謀反」
大津皇子を石川大名児の視点から見た話
「風の祭」
穂積皇子と但馬皇女の話
「昨日の花」
阿陪皇女（元明天皇）の草壁皇子についての思い出の話

いづれも物語にも藤原史（不比等）が登場してきます。

最初の大津皇子の謀反については、いろいろ小説にもなっています。今回の石川大名児ですが、万葉集には大津皇子と石川郎女（大名児）との相聞歌があります。

大津皇子の、石川郎女に贈りし御歌一首。
あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに
　石川郎女の和し奉りし歌一首。
我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを

大津皇子の窃かに石川女郎を婚きし時に、津守連通その事を占ひ露はせるに、皇子の御作りたまひし歌。
大船の津守の占に告らむとはまさしく知りて我が二人寝し

また、草壁皇子も石川郎女に歌を贈ったということですが、返歌は載っていません。

日並皇子尊の、石川女郎に贈り賜ひし御歌一首。女郎、字を大名児と曰ふ。
大名児を彼方野辺に刈る草の束の間もわれ忘れめや

これらの歌から、石川郎女は両皇子に求愛されたけれども、恋の勝者は大津皇子だったとされています。

今回のマンガでは、その万葉集をふまえてはいるのですが、大名児とはそういう関係ではなく、むしろ大津皇子の出生の秘密や藤原史のことなどがメインになっています。

古代史は謎が多いということで、歴史学者だけでなく、小説やマンガなどいろいろな説が唱えられています。今回の話のように大津皇子の出生の秘密というのはあまり聞いたことがないのですが（大津皇子の父である大海人皇子＝天武天皇は、天智天皇の同母弟ではないという説はよく聞きますが）目新しくて新鮮な気がします。

たしかに万葉集に出てくる大来皇女が弟である大津皇子を偲ぶ歌は情がこもりすぎていて、姉弟の肉親の情愛以上のものを感じるという説もあるので、それもあるのかもしれませんけど。

今回のコミックスはメインは大津皇子の話ですが、短編の「風の祭」は同時代のことを但馬皇女と穂積皇子と高市皇子の話を中心に描いてあります。

但馬と高市皇子、穂積皇子は異母兄妹。藤原鎌足の娘である母が亡くなり、長兄である高市皇子の館に引き取られます。そこで、同年代の穂積皇子と仲良く育ちます。しかし、すでに妃もいる高市皇子は、二人の仲を引き裂き、親子ほど年のちがう但馬を妻の一人にしてしまいます。それは、実は大津皇子の謀反を早期に発見した藤原史（藤原鎌足の息子）への警戒心のためでした…

一つの大きな出来事、「大津皇子の謀反」が起こした影響。藤原不比等の台頭に繋がってきています。不比等については、長岡良子さんの古代幻想シリーズの「眉月の誓い」等では藤原史（不比等）が主人公ですので、どうもイメージが混乱気味です。

【本日の言葉】
（天つ雷鳴）から
夫は、「兄は甘い人間だ」と言ったわ
子供が枷になると信じている私の父を
甘い人間だと言ったのよ…
そんな夫に何を期待しろというの！？