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2009.07.31
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カテゴリ:昭和期・歴史小説

   『菜の花の沖』全六巻・司馬遼太郎(文春文庫)

 さて、司馬遼太郎氏であります。
 お亡くなりになられてから、もうすでに、十年以上が過ぎていますよね。
 しかし、人気はいっこうに衰えないようですね。

 去年、東大阪市にある「司馬遼太郎記念館」に行って来ました。
 お洒落な建物で、なかなか面白かったです。

 しかし、以前にも少し触れましたが、若かった頃の私は、今以上に偏見に満ちた考え方をしていまして、愚かにも歴史小説作家に対する、全く謂われのない偏見を抱いておりましたもので、失礼ながら、司馬遼太郎氏の作品について、さほど高い評価を致していませんでした。
 だから、絶頂期の司馬氏は存じ上げません。
 ぎりぎり『項羽と劉邦』がベストセラーになって、さすがにちょっと興味を持ちつつも、すぐに読むのはなんだか腹立たしいから、半年ほどしてから、たぶん古本屋で買って読んだと思います。
 さすがに面白かったという記憶があります。

 そもそも司馬遼太郎氏は、「司馬史観」といわれたりして、なんだか日本人の「先生」みたいな扱われ方をしているようですが、私の感じ方は少し違うんですね。

 少し前に、こんな本を読みました。

   『微光のなかの宇宙』司馬遼太郎(中公文庫)

 司馬氏には珍しい美術評論です(といっても司馬氏は日本美術にはとても造詣が深いですし、美術全般についても確たる独自の考えをお持ちでした)。
 この中に「ゴッホの天才性」という評論がありますが、僕はこれがとても面白かったです。

 例えばこんな個所です。
 ゴッホは中学を出ると、ハーグに出て勤め始めます。この時期のゴッホを作者は「外見上は無能の店員であったにすぎない」としつつ、この様に書きます。

 「この時期のゴッホは自分の中に巨大な色彩の魔神が眠っていることに気づかず、そのことのすばらしさに私はうたれる。私は歴史上の人物に会いたいと思う何人かのなかに、この時期のゴッホに会ってみたい気持ちがあり、ハーグの街の風景を思い浮かべつつ、自分が何者であるかに気づいていないこの年少のみすぼらしい定員をあれこれ想像するのである。」

 司馬遼太郎の小説や文章がとても好まれる理由の一つが、こんな個所に現れる、作者の「詩性」のゆえであると、僕は思います。
 このポエジィは「通俗性」と紙一重のものを持ちながら、それ故に多くの読者をつかんでやみません。
 とってもうまいですね。

 さて、冒頭の『菜の花の沖』です。
 数年前に、兵庫県の淡路島にある「高田屋嘉兵衛資料館」に行ってきました。
 なかなか興味深い資料がたくさんありました。

 そして過日、司馬氏のエッセイで、高田屋嘉兵衛は、江戸時代の日本人の中で、自分が最も好きな人物であるという趣旨の文章を読みました。
 だから私は、ある意味大いに期待をしながら、このまた長ーーい小説を読み始めたのでありました。

 ところが、読み始めて、うーん、何か違う、と私は思い始めたのでありました。
 以下、次回。


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Last updated  2009.07.31 05:49:19
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