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カテゴリ:昭和期・昭和十年代
『老妓抄』岡本かの子(新潮文庫) あの、関西人にとっては、「おーるでぃず・ばっと・ぐっどでぃず」の、懐旧と哀愁と栄光の、「関西が最も美しかった時」「関西が最も燃えた時」の、「EXPO70・大阪・日本万国博覧会」のシンボルタワー「太陽の塔」の作者・岡本太郎氏のお母さんであります。 うーん、極私的かつ極限定地域的感傷ですがー、実に懐かしい。 あの時以来、関西は40年間沈みっぱなしですからねー。 あれ以来、何ーーんにも、ええことあらしません。 とはいえ、関西の沈没と岡本かの子氏とは、なーんの関係もありません。(当たり前ですな。) ただ、かの子の長編小説『生々流転』の扉絵は、息子・太郎の「痛ましき手」という作品であります。 この作は、「芸術は爆発だーーーっ」と、アニマル浜口みたいになってしまった晩年の太郎氏からは想像しがたい、なかなか精神性の高い絵画であります。 さて、閑話休題、この本の読書報告に戻りたいと思います。 実は、「老妓抄」については再読です。幾つかの短編と共に、少し前に僕は岩波文庫で読みました。 そのときの感想は、なんと言っても圧倒的な文章力のすごさでありました。 ちょうどそのころ、たまたまですが、僕はプロレタリア小説なんかを幾つか続けて読んでいました。 それは、決して「つまんない」というものではなかったですが、如何せん、文章の「芸」とかいう視点については、プロレタリア小説はきっとあまりなかったと思われました。 (ちょっと雑駁な捉え方ですかね。小林多喜二なんかはかなりそのあたり、頑張ってはったようですが。) とにかくそんな小説を幾つか読んだ後でこの「老妓抄」を読むと、まるで、同人雑誌の中に一作だけ紛れ込んだプロ作家の作品を読んだごとく、まさに「掃き溜めに鶴」(これは言い過ぎですかね)、惚れ惚れするような快感を覚えました。 しかし実際の所、この文章の歯切れの良さというか、「気っ風の良さ」は、どうも説明のしようがありませんね。 僕がかつて経験した、同じような感じを抱いた他の小説家といえば、 幸田文・森茉莉・久保田万太郎 あたりですかねー。 うーん、冒頭にもありますように、僕は「贅六雀」(これは江戸風に「ぜえろくすずめ」って読むんでしょうね。江戸っ子による、上方人を嘲った言い方です。)でありますから、いわゆる「江戸情緒」染みたものについてはよく存じ上げません。 しかし、なんかそういう言い方がいかにもふさわしい文章力を持つ方々です。 あ、今、思いつきました。 むしろ、これらの作家たちに対抗するような筆力の作家を別系統で挙げるなら、それは 織田作之助 でありますね。または、 野坂昭如『ほたるの墓』。 ともあれ、私ごときの文章力では、この文体の説明のしようがありません。現物を見てもらうに如かずでありますが、例えば、冒頭はこんなんです。 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人の素朴な気持ちに還ろうとしている今日の彼女の気品にそぐわない。 ここではただ何となく老妓といって置く方がよかろうと思う。 (「老妓抄」) どうですか。主人公の佇まいについて、あっという間に説明しきっていますね。 見事なものです。 他に、こんな部分。 父と母と喧嘩をするような事はなかったが、気持ちはめいめい独立していた。ただ生きて行くことの必要上から、事務的よりも、もう少し本能に喰い込んだ協調やらいたわり方を暗黙のうちに交換して、それが反射的にまで発育しているので、世間からは無口で比較的仲のよい夫婦にも見えた。 (「鮨」) 上手な説明ですね。掌の上のものを見るようです。 しかし、この「江戸前」の文章の歯切れの良さとは、いったい何なんでしょうね。これはちょっと、別枠で考える必要があると思えますね。 そもそもそんなものは、本当にあるんでしょうか。 少し考え悩みつつ、次回に続きます。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 /font> にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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