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2009.08.09
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  『老妓抄』岡本かの子(新潮文庫)

 上記小説の読書報告の前回の続きであります。
 前回は、この小説の文章の魅力に、ひたすら私は感心をしていました。

 極めて「粋」な文体です。しかし、この「江戸前」の文章の歯切れの良さとは、いったい何なんでしょうね。
 そもそもそんなものは、本当にあるんでしょうか。

 そこで私が考えたのは、この「江戸前」の歯切れの良い文章に並び立つものがあるとすれば、それは、関西系の粘っこい文章じゃないかということでした。

 その鼻祖は、私はよく知らないながら、やはり井原西鶴ですかね。
 その後この系譜は、前回も取り上げた織田作之助とか野坂昭如とか、最近の人ならなんといっても町田康でしょうか、その辺に繋がって来るんじゃないですかね。町田氏の文体も、極めて関西的でユニークです。

 関西人の場合は、どうしてこうなっちゃうんでしょうね。
 恥ずかしながら、例えば私でも、このくねくねとのたくった粘っこい文は、どちらかといえば「タイプ」です。下手くそながらも、少しは書けそうな気がします。

 一方、例えば東京人である谷崎潤一郎は、関西に移住して後、関西に芸術的新天地を見つけ、いかにも「関西的」な息の長い文で、『盲目物語』や『春琴抄』といった名作を書きました。しかしその文体は、息は長くはあっても、「粘っこい」感じはしません。

 うーん、不思議ですねー。
 関西人がそうなんだから、やはり、「江戸前」の文章も、あるのかも知れませんね。

 しかし、今思ったのですが、この文体の違いは、結局、物事を認識する際の距離の取り方ではないか、と。
 つまり、「江戸前」の文体のポイントとは、「突っ放し」?

 うーん、ちょっと、考察しきれないところに入ってしまいましたので、とりあえず、ペンディングします。
 さらなる研鑽に大いに励んで(ほんまかいな)、またご報告申し上げたいと思います。

 さて、この新潮文庫の短編集には9つの短編が入っていますが、大きく二つのグループに分かれそうです。

 一つは、生前発表のグループ。
 もう一つは死後発表のグループです。

 読みながら、何となく質の違う、二種類のものがあることを感じていたんですが、読み終えてから作者について少し調べました。
 すると、まずこの作家の小説家としての「実働」は、わずか3年だということを知りました。

 これだけ筆力のある作家が、なぜ一般的な「大成」をしなかったのか不思議に思っていたんですが、なるほど実質的な小説家デビューの翌々年になくなってしまったのでは、むべなるかなであります。

 (かの子は、最初は歌人として、一定名を成していたようです。その後、文壇に認められた作品は、芥川龍之介をモデルとした「鶴は病みき」であります。)

 というわけで、「生前発表グループ」作品は、「老妓抄」を始め、極めて切れ味がいいです。名品です。
 しかし一方、「死後発表グループ」作品は、いわゆる習作の名残が感じられ、どこか「いびつ」な感じがします。

 (えー、「死後発表グループ」作品という言い方は、正確なのか少し不安があります。死後発表であっても、これは「習作」ではないかと感じ得る作品群ということです。)

 例えば「食魔」という天才的料理家を主人公とする作品がありますが、これはもっと面白くなってもいいものが、そうならずに「歪な」展開に終わっているように感じます。

 ただ、それが作者の中で吹っ切れたとき、「生前発表グループ」作品が生まれたんでしょうね。
 岩波文庫の解説文によると、その時かの子は、夫・岡本一平に
 「もう大丈夫、ぱぱも安心して」と、言ったということです。
 早すぎた死が、いかにも痛ましいですね。

 では、今回はこの辺で。


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Last updated  2009.08.09 07:38:30
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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