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2009.08.27
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カテゴリ:昭和期・後半女性

  『センセイの鞄』川上弘美(文春文庫)
  『神様』川上弘美(中公文庫)


 前回から、川上弘美を読んでいます。さらに長短併せて4冊を読みました。
 前回のブログの最後にも書きましたが、川上弘美の作品には「依存性」がありますね。
 太宰治の如く、耳許でこっそり囁きかけてくるような、際どい「官能性」があります。

 うーん、これは少しマズイ。
 何が「マズイ」かと申しますと、川上氏は、筆者紹介欄に載っている写真を見ても分かりますが、とてもお美しい女性ですね。
 まー、「お若い」からは、少々隔たりつつあるようでございますが、それでもこんなお美しい女性がわたくしの耳許で、

 「この話はね、貴方にだけ言う秘密よ、誰にも言っちゃいやよ。あのね…」

 なんて語りかけられた日には、私のそうでなくても風前の灯火のような「理性・判断力」などは、一気にパチンと崩壊してしまいます。うーん、これはマズイ。

 ……、えー、反省を致しましてー、以下、冷静に、述べたいと思います。(大丈夫かな。)

 さて、まず、『センセイの鞄』を取り上げてみます。
 以前にも触れたような気がしますが、かつて小林秀雄が、個人全集を読むことを非常に勧めていました。そんな難しい話でなくても、一人の作家の全作品を追いかけていくということは、非常におもしろいものです。

 僕も以前はそんな読み方をかなりしていたのですが、まとまった時間がとれなくなって、最近はなかなかそうはいかなくなりました。
 今回久しぶりにそれに近い読み方をしていて、非常におもしろがっています。

 で、『センセイの鞄』ですが、この作品は川上氏の既出の作品の流れから考えますと、(これも前に少し触れましたが)たとえば村上春樹でいうと、『ノルウェイの森』のような位置づけに思えました。

 つまり、本筋の仕事とは少し違うところで、とてもおもしろいものができてしまったという感じです。
 川上弘美の本筋で言うと、『溺レる』のほうが遙かに主流だと思います、少なくとも、発表された作品群の流れに沿って考えれば。
 いわゆる存在の根元的な寂しさという、一貫したテーマに沿っています。

 じゃあ『センセイの鞄』はどうかというと、印象的なものですが、かなり通俗的なおもしろさが見られます。でもそれがとてもおもしろい。恋愛小説の「ツボ」について、全く上手に押さえてあります。(この作以降、筆者は恋愛小説の名人みたいに扱われている気がします。しかし僕は、本来はそうではなかったように思うのですが。)

 さてずっと川上弘美ばかり読んでいたきたのですが(10冊ほどですが)、とりあえずこれでやめようかなと思っています。これ以上追っかけていきますと、本当に「依存性」が抜けきれなくなりそうな気がします。(まぁ、それでもいいんですが。)

 最後に短編集『神様』を取り上げます。
 今まで読んできた中では、『溺レる』と『センセイの鞄』と、後一つ、この『神様』の三作で、川上弘美氏の作品紹介としてはほぼベストかと思います。

 実はこの短編集が、読んでいて一番さわやかでした。
 内田百ケン(「ケン」の漢字が出ません。「門構え」の中に「月」です。)ばり、あるいは筒井康隆の作品並みの、乾いたシュールを感じます。

 今取り上げた三作の中ではたぶん一番古い作品集なんでしょうが、文体・プロット共、とても瑞々しく魅力的であります。
 しかし、このタイプの小説を書き続けるのって、きっと大変なんだろうなと思いますね。

 小説というものは、どうしても、感情や叙情が前面に出てくるもので、それから逃れるにはかなりのエネルギーや想像力を必要とする気がします。
 内容的に軽くならずに、そんな世界を書ききってしまうのはかなり大変なんでしょう。

(例えば、筒井康隆氏は、年齢を重ねるほどに、それをうまく描く作品が現れてきていますが、それでもいわゆる「当たり外れ」が見られるように思います。)

 川上氏については、作品が新しくなるほどに、ちょっとそういった乾いたシュールが消えていって、代わりに哀愁が漂いだしている気がします。

 今後、川上氏がどのような方向に進んでいこうとなされるか、余人の予測するところではありませんが、しかしなるほど、生きていく作家というのは、本当に大変なものだなと思いました。うーん。


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Last updated  2009.08.27 06:35:39
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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