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カテゴリ:明治期・反自然鴎外
『雁』森鴎外(新潮文庫) 文豪ですね。 この小説家の作品も、考えれば私は、長く読んでいなかったように思います。 というより、「漱石・鴎外」と並べた時、私は「漱石派」なんですね。 漱石と鴎外の小説中、既読の作品数の差に、かなりの隔たりがあるように思います。 小説家にも、「鴎外派」と「漱石派」がありますね。 実際にこの両者に世話になった小説家は言うまでもなく(例えば荷風とか、芥川とか)、その後の小説家にもそれはありそうです。 「漱石派」の方が多そうな気はしますが、今思い出してみますと、えー、例えば、太宰治・三島由紀夫なんかは「鴎外派」ですね。 太宰は、確か『女の決闘』に、「漱石よりも鴎外」と書いていたような気がしますし、三島も鴎外の文体の影響を受けたと何かに書いていたように思います。 安吾は、以前にも触れましたが、漱石嫌いです。 しかし梶井基次郎は、「漱石派」ですね。手紙に「梶井漱石」と書いてあったりしています。谷崎も、「漱石派」ですね。『それから』に大層感心をしていました。 こうして考えてみると、存外「鴎外派」も多いです。 というより、鴎外は、いかにも「玄人好み」な感じがします。 なぜこんな話になったかといいますと、鴎外について、いえ、この『雁』について、僕はよくわからない事がふたつあったからです。 それを考えながら、この作品を読み始めたのですが、分からない事とはこのふたつです。 (1)鴎外は、どんな読者を想定してこの小説を書いたのか。 (2)鴎外は、そもそもなぜこんな「恋愛小説」を書いたのか。 この(1)と(2)は同根と考えてもいいのですが、とにかくそんな事が気になりました。 で、読み始めると、ますますこれが気になるんですね。なんと言っても、もっとも典型的な事例は、こんな表現部ですね。 その後だいぶ金が子を生んでからは、末造も料理屋へ出這入することがあったが、これはおお勢の寄り合う時に限っていて、自分だけが客になって行くのではなかった。それがお玉に目見えをさせると云うことになって、ふいと晴がましい、solennelな心持ちになって、目見えは松源にしようと云い出したのである。 「solennel」というのはフランス語で「儀式張った」という意味だそうです。注にそう書いてあります。 まず鴎外が想定している読者は、こんなフランス語が普通に読める人達なんですね。 考えてみれば、そうなのかも知れませんね。この作品は雑誌「スバル」に連載ですが、「スバル」を読む読者というのは、まー、大学生か大学関係か、要するに外国語は二種類くらいは理解できるインテリゲンチャなんでしょうね。 つまりこの小説は「インテリゲンチャ」向きの小説である、と。 もっとも鴎外は、晩年その世界に入った「史伝」の多くを、「東京日々新聞」「大阪毎日新聞」に連載し、難解で読者が困ったという話を聞いた事があります。 つまり、鴎外は、読者の事なんか何も考えなかったのだ、とも言えそうです。 この辺は、漱石と鴎外の、大いに異なるところですね。 もちろん漱石は、朝日新聞に入社後は専業作家として作品を書いていたのですから、読者の設定とその好みに合う作品を描く事は、本職を軍医として持っていた鴎外とは、そもそも比較の対象にならないのかも知れませんが。 一方で鴎外は、小説は何を書いてもいいものだという、その時代としてはとても先見性の高い考え方を持っていました。 だから(「だから」なのかどうかは少し迷いますが)、同じく「スバル」に『ヴィタ・セクスアリス』なんかを書いて(この本は主人公の「個人性欲史」であります)、軍人(軍医)であるのにかかわらず、「発禁処分」を受けたりしていますね。 えー、とりあえずここまでをまとめてみますと、こういう事が言えそうですね。 鴎外はほとんど「白痴的」に、小説『雁』を書きたいから書いた。 うーん、画期的な『雁』論じゃないかしら。 さらに、この画期的な『雁』論は、次回に続きます。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 /font> にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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