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2010.01.23
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  『重き流れの中に』椎名麟三(新潮文庫)

 上記小説報告の後編であります。前回まで述べていましたことは、こういう事です。

  椎名麟三=「スルナ・ビンボー」

 以上。
 って、これで「以上」は無いだろうとも思いますが、おおむね前回に書いていたことはこんなものです。(おーい、じゃあ残りはムダな文章かーい。)
 いえ、ただ一つ大切なことを忘れていました。
 それは、今回読んだ小説が、とてもとても面白かったと言うことでした。

 ではもう少し丁寧に見ていこうと思います。
 上記の小説集の中には三作の小説が入っていまして、順番に書きますと、

  「深夜の酒宴」(昭和22年2月)
  「重き流れの中に」(昭和22年6月)
  「深尾正治の手記」(昭和23年1月)

 となりますが、この発表された順番は、そのまま椎名麟三が戦後文壇に「センセーショナル」に認められた順番でもあります。

 実際こうして順に読んでいくと、一作ごとに、まるで倍々ゲームのように、作品の出来が良くなり、ぐんぐん面白くなっていくのが分かります。

 僕も最初の小説を読んでいたときは、これはいかにも戦後の暗いお話し。
 主人公に極端なニヒリズムと無気力感が見られ、然しこれがどこから来てるのかは充分描かれておらず(ただし、こんな展開というのは「純文学」にはしばしば見られるものであります)、かつて「僕」が刑務所に入っていたという記述がちらほらと見えるだけの、「転向小説」の様なものでありました。
 (少しだけ補足しておきますと、椎名麟三は、戦前、共産党活動により実際に刑務所に入れられ、獄中で、思想的葛藤から「転向」しています。)

 出来の悪い小説とは思いませんが、まー、いかにも「戦後派」の「暗く貧しく誠実に」
を地でいったような小説でした。

 ところが、二作目、内容的には前作に直接繋がっていながら、俄然見通しがよくなり、構造的になっています。
 なるほど、ドストエフスキー的なやや神経症な笑いが全編中からこみ上げてきています。

 そして三作目、僕は今まで、「手記」なんて小説からあまり面白いものに当たったことがなかったので、少し用心しながら読み始めたのですが、ぐんぐん引き込まれていきました。

 イデオロギー的なものが完全に背面に消え、登場人物が動き出しています。
 壊れかけた貧乏下宿に、何をなすともなく暮らしている(かつては共産主義活動をしていた)「僕」と、同じ下宿人の山崎・池田・小山・宮原美代など、それぞれ強烈に個性的な人物が、見事に書き分けられています。

 次の引用部は、肺病のため死期が迫っている宮原美代の二畳半の部屋に、「僕」が行き、枕元で語るセリフです。

 「死んでから極楽へね」と僕はますます酔ったように云った。「いや、池田さんがね。池田さんを御存知でしょう。池田さんがあなたのことをとても心配していて、いろいろ骨を折っているんです。だが僕たちは貧乏人でしょう。何も出来ないんです。でも墓地はきまりましたよ。この先に寺町というところがあるでしょう。ええと、何という寺か名前を忘れましたが……そこへ頼んだというんです。まあ、金がないんで、近くにゴミ捨場があったりして余りいいところじゃありませんが、それでいいでしょう?」
 すると美代は何かひどく仕方なさそうな笑いをうかべたのだった。


 うーん、ドストエフスキー的会話ですねー。
 こんな、神経症的なユーモアと、突き放したような人物描写が見事に展開していきます。

 僕は、この作品の登場は、日本文学にサルトル的小説を現出させたといわれる大江健三郎の『死者の奢り』くらいに、文学史上エポックメーキングな出来事じゃなかったかと思いました。

 然しこの後、この作家はどうなったのでしょうか。
 ノーベル賞を受賞した大江健三郎や、ノーベル賞受賞は逸したものの、世界文学レベルの小説を書き続けた安部公房のようには、おそらく、進まなかったのではないでしょうか。

 ふーむ。とりあえず、椎名麟三の他作品を読んでから、また考えてみたいと思います。


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Last updated  2010.01.23 08:01:22
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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