|
全て
| カテゴリ未分類
| 明治期・反自然漱石
| 大正期・白樺派
| 明治期・写実主義
| 昭和期・歴史小説
| 平成期・平成期作家
| 昭和期・後半男性
| 昭和期・一次戦後派
| 昭和期・三十年男性
| 昭和期・プロ文学
| 大正期・私小説
| 明治期・耽美主義
| 明治期・明治末期
| 昭和期・内向の世代
| 昭和期・昭和十年代
| 明治期・浪漫主義
| 昭和期・第三の新人
| 大正期・大正期全般
| 昭和期・新感覚派
| 昭和~・評論家
| 昭和期・新戯作派
| 昭和期・二次戦後派
| 昭和期・三十年女性
| 昭和期・後半女性
| 昭和期・中間小説
| 昭和期・新興芸術派
| 昭和期・新心理主義
| 明治期・自然主義
| 昭和期・転向文学
| 昭和期・他の芸術派
| 明治~・詩歌俳人
| 明治期・反自然鴎外
| 明治~・劇作家
| 大正期・新現実主義
| 明治期・開化過渡期
| 令和期・令和期作家
カテゴリ:昭和期・プロ文学
『渦巻ける烏の群』黒島伝治(新潮文庫) 四つの短編が入っています。 その中で、たぶん最も有名な作品は、『二銭銅貨』という作品じゃないかと思います。高校国語の文学史教科書にも、その名が載っています。 ただ、同名の短編小説がもう一つありますね。むしろ、こちらを読んだ方のほうが多いと思います。作者が、黒島伝治よりもかなり有名な江戸川乱歩だからですね。 乱歩の作品の方が先に書かれています。 たぶん黒島伝治はそのことを知らなかったんでしょうね。だって、知っていてそうする理由があまりないような気がします。 (ただ、今回初めて知ったのですが、伝治の『二銭銅貨』は初出においては『銅貨二銭』だったそうです。) ともあれ、知名度の低い方ですが、黒島伝治の小説の中ではおそらく一等知名度の高い(なんかややこしい書き方になりましてすみません)『二銭銅貨』を楽しみに読もうとしましたが、少しびっくりしました。 岩波文庫で、わずか7ページです。 いくら何でも短かすぎませんか。 黒島伝治という方は明治三十一年に生まれ、そして昭和十八年に45歳で肺結核で亡くなっています。だからさほど沢山の作品が残っているわけではないんですが、それでも一番の代表作が7ページの短編というのは、ふーむ、どんな感じなんでしょうかね。 内容は、貧しい農家の話で、二銭を惜しんだがために息子を失ってしまうという話です。 初期のプロレタリア文学ですから。 なるほど、感情を抑え、淡々と描写していくことでそれに語らせるという、まぁ日本文学お得意の表現方法で、上品な良い文章であります。 特に、終末の切れ味の鮮やかさは、なかなかのものだとは思いますが、しかし、それにしても、7ページで一人の作家の業績を代表するというほどの「名作」とは思いませんでした。 そもそも小さな原因が大きな結果をもたらすという、なんか「逆わらしべ長者」みたいな話は、個人的な好悪なのかも知れませんが、僕はあまり好きじゃないんですよねー。 作品の象徴にまで高まるような小さなエピソードというのは、なかなか難しいものだと思います。 例えば、鴎外の『雁』の中に「鯖の煮込み」というのが出てきて、それが原因で「お玉」は失恋するという段取りですが、これもちょっと穿ちすぎという気がします。 (もっとも、鴎外はそんなことお見通しでしょうが。) (話の横滑りついでに、このエピソードはうまいものだなーと思ったのは、小川洋子の『博士の愛した数式』の中の江夏豊の背番号の扱い方。これはとっても感心しました。) というわけで、『二銭銅貨』は、ちょっとした珠玉作ということで、えー、よろしいでしょうか。 残りの三作の中に、シベリアが舞台の小説が二つあります。 どちらも日本軍のシベリア出兵の話で、共に極めて悲惨な話であります。しかし、雪のシベリアの風景は、なぜかとても詩情あふれています。 筆者はチェーホフが好きだったと解説文にありました。確かに、雪景色の中でストーリーが展開していく様は、極めて悲惨な話でありながら、感情を抑えた上品な描写が、なるほどチェーホフを彷彿とさせます。 子供たちの外套や、ズボンの裾が風にひらひらひるがえった。 三人は、炊事場の入り口からそれを見送っていた。 彼らの細くって長い脚は、強いバネのように、勢いよくぴんぴん雪をけって、丘を登っていた。 「ナーシャ!」 「リーザ!」 武石と吉永とが呼んだ。 「なアに?」 丘の上から答えた。 子供たちは、みんな、一時に立ち止まって、谷間の炊事場を見下ろした。 こんな小さな描写でも、とてもうまいですね。 それに加えて、話がきっちりとまとまっています。上記にも触れた『二銭銅貨』の終盤の切れ味の良さというのも、いわば構成が優れているということですね。 ただねー、また個人的な好悪の話みたいになるんですが、こんなにしっかりとまとまっていて、よけいにはみ出す部分を持たない短編というのは、どうも感想が書きにくいです。 とっても上手だと思いました、で終わってしまうんですねー。 うーん、困りました。 もちろん、作品の裂け目や瑕疵にばかり注目して展開していくような感想は、極めて「下品」な読み方だと、わたくしも重々承知致してはいるのですがね。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 /font> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[昭和期・プロ文学] カテゴリの最新記事
|
|