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2010.03.06
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  『足摺岬・絵本』田宮虎彦(角川文庫)

 時々本ブログに現れる、我が家の本棚の肥やし『筑摩現代日本文学大系』ですが、その73巻目に、四人で一冊の配当ですが、田宮虎彦の作品が載っています。
 この全集本は、作品部分の冒頭にその作家の筆跡のページがあって、いろんな作家がいろんな事を書いている直筆が印刷されてあります。

 例えば、夏目漱石の巻には、有名な「則天去私」の掛け軸の文字が印刷してあります。
 少し別なのも見てみましょうか。

 やー、さすがこの作家、というのを一つ見つけました。こんな文です。

   沈黙は金 
   なみだは真珠 
   花はふるさと 
   気の弱い友


 こんな名文(迷文)を書く作家は誰でしょう?

 はい、答えは、この「気の弱い友」の後に、実はもう一文字書いてありました。「治」と。

 そんなページがあるんですが、さて今回の報告小説の筆者、田宮虎彦のページには、こんな一文が書かれています。

  たとえ醜い真実であっても 真実の中には人間を磨き上げる美しさがある

 なかなかいいことが書かれてあるとは思いますが、最初はあまりぴんと来なかったんですね。しかしこの度、この筆者の短編集を初めて読みまして、うーん、なるほどなー、とつくづく思いました。

 何をなるほどなーと思ったかと言うことですが、その前に、僕はこの短編集の中の一作『絵本』について、ちょっと自信のない思い出があります。

 それは、この『絵本』という小説を高校の授業で習った覚えがあるというものであります。
 それがなぜ「自信のない思い出」なのかというと、今回『絵本』を再読して(かつて一度読んだことがあるのは間違いありません)、本当に、思いっっっっ切り! 暗い話であることに吃驚したからであります。

 こんな、思いっっっっ切り暗い本を、本当に教科書に載せていたのだろうか。
 こんな、思いっっっっ切り暗い本を、ティーンエイジャーに読ませることに一体どんな狙いがあるのだろうか、などと考えていくと、むしろ僕の記憶の方が間違っている(こんな小説は、やはり教科書には載っていない)と考える方が「ノーマル」な気がする、ということであります。

 どなたか、私も高校の国語の教科書で読んだという記憶をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご一報いただければ幸いに存じます。

 ということで、冒頭の『筑摩』の筆者の直筆文の「謎」が解けた(?)ことと思います。
 本短編集には七つの小説が収められてありますが、とにかく全品尽くが、思いっっっっ切り「暗い」です。

 何によって暗いかと言いますと、「戦争」「貧困」というあたりが取り敢えずの理由であります。
 例えば、「戦争」の暗さというのは、どの戦争についてかといいますと、もちろん中心は第二次世界大戦なのですが、作品の中には、戊辰戦争にまで遡ったものもあります。

 やや話がそれますが、山田風太郎の「明治小説集」の中にも、特に東北地方における戊辰戦争の悲劇について触れた作品があります(『幻燈辻馬車』など)。
 そういった作品を読んでいると、近代国家というものが、その誕生期においてすでに、国民個人に対して時に牙を剥いたような苛烈さで臨むものであることが、ありありと分かります。
 そして山田風太郎は、そんな明治という時代を「一つの地獄のような時代」と述べています。
 (司馬遼太郎も、一般市民に対してその肉体の抹殺までも強要することのある国家という存在は、明治維新によって初めて生まれたと説いていました。)

 えっと、ちょっと中途半端な形になってしまいましたが、以降、後半へ続きます。


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Last updated  2010.03.06 10:54:38
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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