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2010.03.27
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  『李陵・山月記』中島敦(新潮文庫)

 先日、久しぶりに新しい本を買いました。
 本ブログに報告しているごとく、絶版になったような本ばかりを、ネットで探したり古書店に足を運んだりしていたので、新刊書はしばらくぶりであります。

 で、こんな本を買って読んでみました。

  『文学全集を立ちあげる』丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士(文春文庫)

 当代名うての「本読み」が、新しい文学観に立って、「夢の文学全集」を編纂するというテーマを語り合った本です。
 僕はとっても面白かったですが、こういう本が文庫本になってもペイするんですね。

 文学は、実は今、微妙に「ブーム」なんですよね。
 はっきり言うと、生きることに疲れ、時代に「疲弊」した人々が増えてきているんでしょうね。

  「心の疲れに日本文学」

 大いに古典的な日本文学作品が読まれ、そしてついでといっては何ですが、本ブログも、多くの方がお読みくださることを願ってやみません。はは、は。

 閑話休題、上記の文学全集を編集しようと言う本に、こんなことが書かれてありました。

 三浦・僕は極端に言うなら、中島敦入れるなら、芥川はいらないと思う。

 少し離れた所にまたこんな発言が。

 三浦・芥川龍之介が一巻ならば、中島敦一巻でしょう。筆力からいっても、構成力からいっても、中島敦のほうが芥川より上だと思った。
 丸谷・中島敦のほうが教養が上なんだよ。いいでしょう。じゃあそれでやりましょう。
 鹿島・中島敦は洋文脈も隠し味で入ってる。だから古びない。


 なるほどねぇと感心しましたが、もしこれに付け加えるとすれば、芥川は基本的に「シニカル」な感じがします。
 一方中島敦は、初期の『西遊記』を取り上げた作品などにも強い「存在論的不安」は描かれていますが、どこか生きることに対する慈しみの情が感じられます。
 今回報告の短編集にある作品で言いますと、『弟子』なんてお話は、全編それに溢れているように思います。

 僕は思うんですが、この両者の違いは、二十代前半で華々しく文壇にデビューした作家と、作品の評価は死後に待つしかなかった夭折作家との差だというのは、少し穿ちすぎでしょうかね。

 さて、本短編集には四つの小説が入っています。

   『山月記』『名人伝』『弟子』『李陵』

 どの作品を取り上げても、「絶品」としか言いようがありません。

 上記に少し触れた『弟子』には、孔子とその弟子の「子路」との、とても細やかな交流が描かれています。
 主人公の「子路」は、最後に、膾のように切り刻まれて死にますが、彼の人間性の根幹を「没利害性」にあると捉えたところに、この小説の読後感の何ともいえない爽やかさと暖かさがあります。珠玉作です。

 『名人伝』を今回改めて読んで強く思ったことは、筆者は本作で、かなり確信的に諧謔性を志向したのではないかということでした。(中島敦には初期作品から、あの独特の格調の高さと干渉しあわない諧謔性があります。)

 そもそもこういった一芸の達人の話は、尊敬と紙一重のユーモアを持ちますし、それを漢民族的徹底性の中で重層的に語っていくと、そこにはおのずと諧謔が発生します。
 そして最後が、老荘思想の「至為は為す無く、至言は言を去り、至射は射ることなし」と来れば、これは「諧謔性」への確信犯でしょう。
 読者にいたずらっぽく微笑みかける筆者の顔が、思わず浮かんできそうです。

 さて『山月記』は、高校で習いましたよね。
 あの、恐るべき漢文脈。次回はそれに触れてみたいと思います。


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Last updated  2010.03.27 08:54:31
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