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カテゴリ:昭和期・後半女性
『刺繍する少女』小川洋子(角川文庫) 上記短編小説集の読書報告の後編であります。 前回まで述べていたことは一言で言いますと、 「小川洋子はフランス好み」 であります。 いえ、小川洋子がフランスを好んでいるというのではなくて(彼女が好んでいるのは阪神タイガースだそうですね。もっともそればかりではないでしょうが)、フランスで好まれているということですね。で、その原因が、彼女の小説の特徴である、 「残酷と優雅」 にある、という内容でありました。 そもそもこの作家は、身体のパーツの欠落や病気、あるいは「奇形」などに対して、実に独特なイメージの拡がりを見せます。 この傾向は何なのでしょうか。 小川洋子のこのような嗜好は、しかし、「異常」が先行して存在しているという形を取りません。このへんが、僕が「女性的」と感じる理由なんですが、まず日常的な細々としたものに対する偏愛という形で現れます。 細々としたものとは、例えば衣服、手芸、料理などです。 叔母は絵の具工場の女子従業員にまつわるいろいろな出来事について喋った。 ……いつも気前よく新製品を買ってくれる人なんだけど、このあいだ旦那さんが交通事故にあってね。トラックの後ろで荷物を下ろしてるところに、わき見運転のスポーツカーが突っ込んで、両足がちぎれちゃったの。もう、化粧どころじゃないわ……。(『アリア』) わたしは風邪をひかないよう、毎日毛糸のパンツをはいて学校へ行かなければいけなかった。熱が出るとすぐ、唇におできができるたちだったからだ。そして髪を洗ったあとは、椿油をしみ込ませたガーゼで頭をマッサージし、五十回ブラッシングした。椿油は、夏休みの宿題でやった昆虫採集の、干涸びたこがね虫と同じにおいがした。(『美少女コンテスト』) そしてその延長に、上記のような身体のパーツへの偏愛が現れてくるのですが、とにかくそれらを見詰める視線がいかにも厳格で人工的で、かつとても冷たいです。 これは、フェティシズム? マゾヒズム? あるいは、人形愛=ピグマリオン・コンプレックスなのかも知れません。 人形愛なんて、いかにも「静かな異常」という感じがしますものね。 またそれは、残酷さと、あるいはグロテスクへの嗜好と言い換えていいかも知れません。 そしてさらに、その底に流れるものはと考えると、……詰まるところ、自由や意志や存在への不安に行き着いてしまうのでしょうか。 最後に少し変なことを書きますが、小川洋子の作品が漂わせるこういった残酷さというものは、実は、同人誌なんかによく似たものが多いです。 何故かというと、この残酷さは、一見芸術的な香りの様に思えるからです。 本作品集も、よく似たテイストの一連の作品を重ねて読んでいくと、息苦しく感じてしまいます。書き手はそんなことはないのでしょうか。 ないはずはありません。筆者は意識的に息苦しい角度で現実を切り取ったものを、我々の前に広げているのですから。だとすると、この息苦しさは、筆者にとっては耐えていかねばならない己の人生そのものだと思います。 上記に、小川洋子的残酷さは同人雑誌に多く見られるという、いかにも誤解を生みそうな表現をしましたが、しかし、多くの同人雑誌小説家はこの残酷さからそのうち離れていきます。 なぜなら、この残酷さを見詰め続けるには、自分の人生をその角度で捉え続けるという極めて強靱な意志が必要であるからです。凡百の同人雑誌小説家には、そのような状況に耐えきれません。 そんな強靱な観察を続ける小川洋子にあるもの、それは生半可な流行の「癒し志向」などであるはずもなく、「才能」とそして、彼女自身の強烈な「意志」の結実であるのでしょう。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 /font> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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