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2010.08.04
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カテゴリ:昭和期・新戯作派

  『青春の逆説』織田作之助(角川文庫)

 かつて中島敦の年譜を読んだ時に感じたことです。
 それは、本来ならその才能がさらに鍛えられ、あるいは開花を迎えようかという時期に、完全に悲惨な戦争と重なってしまった(厳密に言えば、中島敦は完全に重なることも出来ないほど早く亡くなってしまいましたが)作家の悲劇というものを強く感じました。

 そしてこの度の報告の作家、織田作之助についても、果たして中島敦と同様だろうかと思いました。
 しかし、悲惨な戦争期に活動期が重なってしまい充分な文学的結実が残せなかったというのは、すべての同時期の作家に言えることではないか、と思われるかも知れませんが、そして、ほとんどの作家のケースについてはその通りなんですが、ところがここに、筆者織田作之助の立ち位置に極めて近いところにいる作家について、不思議な例外が認められるんですね。

 何を隠そう、太宰治がそうです。
 彼の昭和十年代から二十年にかけて発表された作品群には、奇蹟のように名作が連なっています。『富嶽百景』『駆込み訴え』『走れメロス』『津軽』『お伽草子』などなど、どれをとっても絶品であります。
 でも、やはり太宰治は、極めて稀有な「例外」でしょうね。
 この度、織田作之助の年譜を見て、やはりそう思いました。こんな略年譜です。

  昭和13年(1938)・25才 処女小説『ひとりすまふ』発表。
  昭和14年(1939)・26才 結婚。『俗臭』発表。
  昭和15年(1940)・27才 『俗臭』芥川賞候補となる。
                  4月、『夫婦善哉』発表。
  昭和16年(1941)・28才 『青春の逆説』前後編に分けて刊行。
                  後編が発禁処分となる。
                  12月、日米開戦
   (略)
  昭和21年(1946)・33才 『六白金星』『アド・バルーン』『世相』
                  『競馬』など。流行作家となる。
  昭和22年(1947)・34才 1月、永眠。

 織田作之助の出世作『夫婦善哉』は昭和15年発表ですが、彼の本領発揮はなんと言っても戦後、つまり昭和21年の諸作品でしょう。次々にヒット作が発表され、瞬く間に流行作家となったこの時期であります。

 上記の(略)部は、やはりこの時期に彼らしい作品の発表がないからであります。
 就中、結婚もして、芥川賞候補にもなり、そして好評を博した『夫婦善哉』を受けて発表した最初の長編小説『青春の逆説』が発禁処分にあったことは、翌年よりの沈黙と無関係とは思えません。

 さて、織田作の織田作らしさと言えば、この昭和21年に発表された作品群に共通するもの、つまりまず短編であること、そして次に、人生の甘い酸いを噛み締めたような切れ味の良さだと思います。

 今回紹介の長編小説は、昭和16年発表のものでありますが、随所に織田作らしいキレのよい表現があります。
 冒頭はいきなりこんなエピソードから入ってきます。

 お君は子供のときから何かといえば裸足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰の上を裸足のままペタペタと踏んで、
「ああ、良え気持やわ」
 それが年頃になっても止まぬので、無口な父親も流石に、
「冷えるぜエ」とたしなめたが、聴かなんだ。蝸牛を掌にのせ、腕を這わせ、肩から胸へ、じめじめとした感触を愉んだ。また、銭湯で水を浴びるのを好んだ。湯気のふき出ている裸にざあッと水が降り掛って、ピチピチと弾み切った肢態が妖しく震えながら、すくッと立った。官能がうずくのだった。何度も浴びた。


 いかにもこの先の展開を期待させる書き出しですね。一つのお話の始まりとしては実に見事なものだと思います。
 こんな冒頭の書きぶりは、織田作らしい読者へのサービスだと思えますが、同時にこの書き方は、彼が本質的に短編小説作家であることを感じさせます。

 以下、次回に続きます。


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Last updated  2010.08.04 07:37:44
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