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カテゴリ:昭和期・新感覚派
『雪国』川端康成(新潮文庫) えー、新感覚派であります。 文学史の本などを見ていますと、新感覚派の文体の特徴としてよく例示されているのは横光利一の『頭ならびに腹』(しかし、すっごいタイトルですね。このタイトルが既に新感覚派ですね)のこの文でしょうか。 真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で駈けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。 横光の盟友・川端康成の文章で挙げるとすると、有名どころで言えばやはりこの『雪国』の有名中の有名文、ここのところが挙がっていますかね。 国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた。夜の底が白くなつた。 後、『伊豆の踊子』の中に確か、「踊り子はことことと笑った」ってな文があって、どこかで取り上げられていたように覚えているんですが、違っているかしら。 今回『雪国』を読み返しまして、こんな部分を再発見し、私としてはちょっと驚いたんですが、ここも人口に膾炙した部分なんでしょうか、こんなびっくりする表現です。 お遊びで問題形式にしてみました。 (問1)次の空欄1に、新感覚派川端康成の表現として相応しい語を入れよ。 窓で区切られた灰色の空から大きい牡丹雪がほうっとこちらへ浮び流れて来る。なんだか静かな( 1 )のようだった。島村は寝足りぬ虚しさで眺めていた。 「ほうっと」なんて言い方も大概ですが、この空欄部は普通は思いつかないでしょうなー、原文を覚えている人以外は。ヒントは漢字1文字です。って書いても、きっと分からないと思うんですがね。 今回報告の川端康成ですが、うーん、どう言ったらいいんでしょうか、かつて、ずっと日本にノーベル文学賞受賞作家が一人しかいなかった時(大江健三郎の受賞以前ってことですね)、世界に誇る日本文学といえば(村上春樹が小説を書き始める以前ってことですか)、「タニザキ、カワバタ、ミシマ」しかなかった時(「コーボーアベ」を入れてもいいですが)、そのころ素朴で純真な文学少年であった私にとって、『雪国』は「日本文学そのもの」でありました。 このたびウン十年ぶりに読み返してみて、あの頃私が作品に感じていたことを今でも結構覚えていることに、我ながら少し驚きました。駒子の会話とか、最後の火事のシーンとか、「いやー懐かしーなー」という感じがとてもしました。 特にあの火事のラストシーンは、なんというか、私にとってまさに日本文学の「王様」(ってとっても変な言い方ですが)の描写でしたねー、間違いなく。これこそが、日本文学であるって思っていましたね。(でも日本文学とは何かについては、きっとなんにも判っていませんでした。あ、今でも判っていませんが。) しかしまー、時は移り、川端康成は逗子のマンションでガス管を銜えて自殺をし、一方私はというと、徒に馬齢をのみ重ね、小説についても「すれっからし」になってしまい、今回、幾つかの別な感想を持ちました。 まず、設定ですがね。 この設定って、かなり男に都合のいい設定ですよね。 自分は有閑階級で、年に一度ずつ暇つぶしのようにゆく旅先越後湯沢に自分に惚れている芸者がいるって設定ですが。 いや、そんなところは重要な部分ではなく、これは男の夢物語であり、その中でどんないい夢を見せてくれるかが大切なのであるという考え方も、まー、出来ないでもないですがねー。 確かに実際、漱石の『それから』を挙げるまでもないですが、近代日本文学にはこういった親譲りの財産に寄生する生活破綻者のお話が結構多いです。社会批判を作品に籠めようとするには、この設定がかなり有効なんでしょうかね。確かにそんな気もします。 そしてその無為徒食者が、社会批判方面ではなく、異性の方面に進んでいくタイプの話としては、永井荷風あたりが「嚆矢」ですかね。 その後、この『雪国』を経由して、私は、吉行淳之介の小説まで辿れると考えるのですが、いかがでしょうか。 次回に続きます。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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