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2010.12.18
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カテゴリ:昭和期・新戯作派

  『富嶽百景・走れメロス』太宰治(岩波文庫)

 上記短篇集の読書報告の第二回目であります。
 前回は、10編の収録作品のうち、今回読んでの印象は、『ロマネスク』が一番面白かったと述べました。でも苦情のコメントなど送らないでくださいね。

 さて今回は、本作品中『魚服記』について考えたことを書いてみたいと思います。
 『魚服記』といえば、これも名作の誉れ高く、太宰治の書いた全作品の中でも、ベスト5の中に入りそうなくらい評価の高い名作であります。
 それゆえ多く評論家や文学者がすでに作品分析をしていますので、今更私が何を詰まらぬ事を付け加えるのだ、「屋上屋をなす」も甚だしい、と。

 まー、そんな風にも思いましたが、いかんせんこの『魚服記』と言う作品には、独特の魅力がある上に、適度に解きがたい謎が仕込まれていて、いかにも批評・分析のしたくなるような短編であります。
 私もその作品の魅力に乗って、少しいろいろと考察推理してみました。

 前回の拙ブログで一応「テーマ」は触れたのですが、こんな内容であります。

 「本作に描かれている『児童虐待』は、一体作品中のいつから起こっていたのか」

 作品中の「児童虐待」とは、即物的に書けば、父親が娘をレイプするということでありますが、この状況は、少なくとも「セクシャル・ハラスメント」と言うくらいのレベルで捉えると、複数年にわたって行われていたんじゃないかという仮説であります。

 この仮説は別に私の独創ではなく、すでにそんな評論もきっとあろうとは思いますが、直接は私は読んでおらず(もちろん私の怠慢故であります)、重複したり変なことをいったりするかとも思いますが、以下に考え考え書いてみますね。

 まず本作の内容(出来事)を、時間軸にしたがって並び替えてみます。
 するとこんな風になります。(「 」部は原文表記です。)

 (1)馬禿山に「十いくつ」ある他の炭焼き小屋から「よほどはなれて」「ちがう土地のもの」として、スワと父親が住む炭焼き小屋が建てられている。

 (2)「父親がスワを抱いて炭窯の番をしながら」、三郎と八郎という木こりの兄弟の、弟の八郎が大蛇になってしまうという民話を語る。「スワはこの物語を聞いた時には、あわれであわれで父親の炭の粉だらけの指を小さな口におしこんで泣いた。」

 (3)「スワが十三の時、父親は滝壺のわきに丸太とよしずで小さい茶店をこしらえ」スワにひとり夏の間、店番をさせるようになる。

 (4)スワは「どうどうと落ちる滝をながめて」少しずつ「思案ぶかく」なっていく。

 (5)スワの十五歳の「夏の終わりごろ」、「たった一人のともだち」と後に追想する「植物の採集にこの滝へ来た色の白い都の学生」が、過失から滝壺に滑り落ちて水死する。スワはその様子を「いちばんはっきりと」見る。

 (6)その年の秋、スワはある日「ぼんやり滝壺のかたわらにたたずんで」、昔父親から聞いた八郎の民話を思い出していると、ふと滝がささやくのを聞く。「八郎やあ、三郎やあ」

 (7)その日、スワを迎えに来た父親が、今年の茶店ももう終わりにしようと言う。スワは、父親の後を歩きながら、極めて異様な発言をする。

 (8)「ぼんを過ぎて茶店をたたんでからスワのいちばんいやな季節がはじまる」。父親は「四五日置きに炭を背負って村へ売りに出」る。「いい値で売れると、きまって酒くさいいきをしてかえった。たまにはスワへも鏡のついた紙の財布やなにかを買って来」た。

 (9)「スワは空の青くはれた日だとその留守に茸をさがしに出かける」。いい値で売れるなめこを探して、彼が採集していた「羊歯類」の「苔をながめるごとに、たった一人のともだちのことを追想した」。

 (10)「こがらしのために朝から山があれて小屋のかけむしろがにぶくゆられていた日」、「スワは一日じゅう小屋へこもって」「めずらしくきょうは髪をゆってみた」。「たき火をうんと燃やして父親の帰るのを待った」。「ひとりで夕飯を食った」。「父親を待ちわびたスワは、わらぶとん着て炉ばたへ寝てしまった」。

 (11)父親によるレイプ。目覚めたスワは「あほう。」と短く叫び、「外へはしって出た」。ふぶきの中を、滝までどんどん歩いていって「『おど!』とひくく言って飛び込んだ」。

 ふー、こんな話しだったんですねー。
 しかし、こうして時間軸に乗せて展開し直してみると、ストーリーとしては実によくわかりますね。
 改めてよくできた話しだと思います。
 (ところで、スワが滝壺に飛び込んでからも、さらに話しは少し続くのですが、そしてその部分についても、いろんな見方があったりするようですが、今回はパスしておきますね。)

 というところで、三回目に続きます。


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Last updated  2010.12.18 08:40:03
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