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2011.02.19
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カテゴリ:昭和期・後半女性

  『日本語が亡びるとき』水村美苗(筑摩書房)
  『本格小説・上下』水村美苗(新潮文庫)


 上記には二冊の本(正確には三冊ですが)が挙がっていますが、えーっと、今回はどの本の報告をしようというのかと申しますと、直近に読んだのは前者の本なんですね。
 でも、作者の水村美苗といえば、後者の本をどうしても外すことができません、少なくとも私にとっては。

 『本格小説』は数年前に読みまして、かなり感心・感動した小説であります。
 本ブログにおいても、いつか読み直してしっかり報告しようと思っていたんですが、『日本語…』を先に読んでしまったもので、だからやはり少し触れておきたいと思います。
 というのも、そもそも『日本語…』を読んだのは、あの『本格小説』の水村美苗の本であったからなんですね。

 ということで、まず『本格小説』について、ざっとだけ触れておきます。私の希望としては、後日再読をして、しっかり報告したいということでありますが。

 数年前に『本格小説』を読んだ時、私の「読書ノート」(メモ程度のことをちょこちょこと書いているノートです。読んだ本によっては少し長い文を書いたりします。今回はそれに当たりますね。)に、少し興奮気味にこんな事を書いています。

   ###############

 長編小説である。心に残っている事柄は多い。だが、以下に箇条書きでアウトラインだけを押さえる。このような作品を客観的に眺めるには、少し時を置く方がよいと考えるからだ。

(1)上下巻1200ぺージになろうとする分量であるが、この分量が間違いなく作品世界を堅牢にしている。美は細部に宿るといったのは三島由紀夫であったかどうか、それはその通りであろうが、優れた作品は細部の美もさることながら、その分量が、質に転化するという好例の作品である。

(2)タイトルについて、いかにも大向こうを意識した感じになっているが、一つは、この作者の前作が『私小説』というタイトルであり(現在読書中。参考までにこの作者は、現在3冊の長編小説のみを発表している。一作目は少し話題になった『続・明暗』。言わずと知れた漱石絶筆の続編に挑んだもの。)、その関係が一つ。もう一つは、作品中にも触れられているが、E・ブロンテの『嵐が丘』が下敷きにされている。『嵐が丘』を下敷きにするとならば、『本格小説』というタイトルでも(できはともかく)遜色、アンバランスはあるまい。

(3)主なテーマの一つは、(すべての芸術作品のテーマと言い換えてもいい、つまり何も言っていないのと同じかも知れないが)「時は流れる」であろうか。しかし、もしも時が流れず、人が死ぬことがなかったならば、芸術なんて生まれなかっただろうなとつくずく感じる。もっともそんな状況下では、人間の知性そのものが生まれなかった可能性はかなり高いが。

(4)上記『嵐が丘』に触れたが、同時にきわめてチェホフ『桜の園』の陰も見られる(これについても作品内で触れられている)。他に太宰の『斜陽』とか堀辰雄や立原道造の軽井沢関係作品群とか(舞台が軽井沢)、とにかく「哀愁」漂う作品であるが、それが通俗性に堕することを留めているのは、二重三重に張り巡らした視点(構成)であろうか。「入れ子」構造が、輻輳する形で用いられている。

 とりあえず以上。
 『嵐が丘』もさることながら、次は久しぶりに『桜の園』を読み直してみようかなと思わせるような作品であった。力作である。

   ###############

 と、まぁ、こんな感じなんですがね。
 なるほど、興奮気味の文章ですね。(よく読めばあまり内容のあることは書いていませんね。)確かこの本を、北杜夫『楡家の人々』と並んで、私にとってその年の「年間ベスト・テン」に挙げたのを覚えています。(後の八作は何だったか忘れてしまいました。)

 で、その後私は『私小説』ってのも読んで(これは実はあまり印象に残っていません)、『続・明暗』はその前に読んでいましたから、その時点での筆者の出版された作品はみんな読んだことになっていました。

 で、さらに、この筆者についてその後も「追っかけ」をしたかといいますと、それが全くしてないんですね。我ながら、本当に我が儘気ままな読書であります。
 (今回、水村美苗についてちょっとネットでも調べたのですが、筆者の単独作品の出版としては、なんと『日本語…』が4冊目ではありませんか。つまり『本格小説』以降、私が著書の「追っかけ」をしようにも、ずっと新作出版が無かったということですね。うーん、寡作作家ですなー。)

 というわけで、久しぶりに水村美苗の本を読んだわけです。
 やはりとっても面白かったですが、それについては次回に続きます。


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Last updated  2011.02.19 08:47:23
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