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2011.10.29
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カテゴリ:明治期・浪漫主義

  『不言不語』尾崎紅葉(岩波文庫)

 いつの間にか、岩波文庫の緑帯を集めるのが趣味のようになっています。
 緑帯というのは、『岩波文庫解説総目録』によるところの、「日本文学(近代・現代)」の分野の本でありますね。

 ただ厳密に言えば、私は集めるのが趣味なのではなくて、文庫本を主として「日本近代文学史の作品」(いわゆる「純文学作品」であります)を読もうとすれば、特に明治・大正期あたりのものはこの文庫に頼らざるを得ず、それで一冊一冊と買っていくうちにある程度の冊数になり、本棚もクリーム色と緑色のツートンカラーの背表紙が一定の陣地を占めるようになり、そうなってくると、こちらもその陣地をさらに広げてやりたくなってきたという、そういう次第であります。

 だから、コレクションというのとは、少し違うかも知れませんね。
 ただ、そんなことをあれこれぼんやり思いながら、本棚の岩波文庫の背表紙を眺めていますと、なかなか楽しいいろんな事に気が付いたりします。
 それは、例えば漱石の岩波文庫についてであります。

 そもそも岩波書店の創業者・岩波茂雄氏は漱石の弟子筋であり、岩波書店の第一番目に発行された本は、言わずと知れた漱石の『こころ』であります。(しかも、出版のための代金は漱石自身が出したとか。)
 だから、現在に至るも、漱石の作品は岩波文庫にたくさん含まれているんですね。

 ちょっと、本筋から離れる話ですが(まー、「本筋」があるとして、ですが)、以前本ブログにて、岩波文庫の「チョイス・ポリシー」がよく分からないと言う趣旨のことを書いたことがありました。
 それは今でもそのような気もするし、しかし、だいぶ分かってきたかなと言う気もするのですが、でも、岩波文庫には「愛されている」作家と、あまり「愛されていない」作家があるのはたぶん間違いないところではないかと、そんな風に感じたりもします。

 愛されている作家というのは、漱石を別格とすれば、その次は泉鏡花ではないでしょうか。鏡花作品はとてもたくさん入っています。
 また、やはり漱石山脈の人は全般に「愛され」気味であるようですが(鈴木三重吉とか森田草平なんかが典型な気がします)、鏡花の次は、芥川ではないかと私は感じます。

 それは、面白くて売れる作家だからじゃないかとお考えのお方もございましょうが、私は、じゃあ、あれだけ芥川があってなぜ谷崎潤一郎が少ない、と思ってしまいます。
 それにやはり、森鴎外は、漱石と比較すると相対的にかつ圧倒的に少ないとも思います。(漱石26冊、鴎外12冊です。)

 で、さて、そこで今回の読書報告作品の筆者、尾崎紅葉であります。
 日本文学史の教科書にある記述で、紅葉と並び称される作家はたぶん幸田露伴でありますが、この二者につきまして岩波文庫に収録されている冊数を、それぞれ上記の『岩波文庫解説総目録』で調べるとこうなります。

    尾崎紅葉7冊  幸田露伴17冊

 うーん、これまた露伴の圧勝でありますなー。
 私自身、冊数を勘定してちょっと驚いてしまいました。
 これで考えると、紅葉は岩波文庫に「愛されていない」作家なんでしょうか。

 ただ、この二人は作家としての実働年数が全く違いますから(没年は紅葉38歳、露伴は80歳であります)、当然といえば当然ではありましょうが。

 そんな紅葉ですが、さすがに岩波文庫は彼の代表作は網羅しています。文庫に所収の7作をちょっと書いてみますね。

  『二人比丘尼色懺悔』『伽羅枕』『二人女房』『三人妻』
  『不言不語』『多情多恨』『金色夜叉』

 この中でおそらく最も知名度の低いのは、今回取り上げた『不言不語』ではないかと思います。そして、事実今日に至ってなお一般的な読書に耐えられるかと考えると、やはりやや疑問符が付くのではないかと思うのですが、でも作品の趣向そのものは、現在でも大いに生きていると思います。

 その趣向とは、いわゆる「謎」の設定であります。
 小説に謎を仕掛け、それを動力部にしながら読ませていく。つまり推理小説仕立てでありますが、この手法のとても巧みであったのは漱石でありますね。(『こころ』などは、まさにそんな作品です。)
 本作もそれに劣らず、というより『こころ』の展開以上に、推理小説仕立てに進んでいきますが、ただ、結局それだけに終わっているとも思われ、そこが『こころ』と評価の袂を分かつ部分だと思います。

 それは、例えば『こころ』には「ネタばれ」がなくて、本作には「ネタばれ」があると、そんな風に言うことができるかも知れません。
 そもそも純文学作品には「ネタばれ」なんかはないと、私は考えます。ストーリーが分かってしまったら面白くない作品は、純文学ではありえません。

 そんな意味でいいますと、本作は決して面白くない作品ではないのですが、やはり時代的限界が感じられるのは、如何ともし難いところでありました。


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Last updated  2011.10.29 10:22:43
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