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2011.12.28
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  『舞姫・うたかたの記』森鴎外(岩波文庫)

 上記小説の読書報告の第三回目であります。三回も続ける気はなかったのですが、いつもながらのずるずる文章で、どーもすみません。頑張って今回で終わらせます。

 さて前回まで私が述べていたのは、『舞姫』の最後にはなかなかいろんな可能性を想像させる部分があるんじゃないかということでありました、多分。
 再掲します。この部分です。

 ああ、相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裡に一点の彼を憎むこころ今日までも残れりけり。

 この一文(二文ですが)は、昔から評判の悪い部分ですよねー。「お前は何を人のせいにしとんねん!」と関西弁で凄まれてしまっても、言い訳の立たないようなひどい弁明であります。
 いえ、この弁明、このままでは常識的に考えてもちょっとひどすぎませんか。

 ひょっとしたら、ここには何かが、わざと書かれなかった何かが隠されているのではないでしょうか。
 そこで次に私が考えたことは、そもそも豊太郎は、具体的に相沢のどの行為を一番憎く思ったのだろうか、ということであります。一体どこだと思いますか?

 もちろんこの問を否定する形で、具体的にどこそこというのではなくて、相沢が豊太郎のためを思ってなした行為すべてのことなのだという考え方はありましょうが、それって本当に正解なんでしょうかね。確かに私も、今までは漫然とそんな風に思っていたんですが。
 でも今回私は、具体的に一番はここ、と挙げられるべきだと思います。そしてそう思って挙げてみると、やはりここしかないですよね。

 つまり、豊太郎が人事不省に陥っている間に、エリスに豊太郎の裏切りのことを総て話して、エリスを発狂させてしまったこと。
 でしょう?

 えー、先に脇道の方から述べますね。
 もし相沢が、エリスにそんなことを話さなかったとしたらどうなっていたかと言うことについて、鴎外は別の文章で触れているんですね。
 可能性として、豊太郎はドイツの地にとどまっていたかも知れない、そして、周囲に面目がなく深く慚愧して、自殺してしまったかも知れないと、鴎外は書いています。(『舞姫に就きて気取半之丞に与ふる書』)

 しかし、これもひどい話でありますよねー。
 でも、まー、自殺はともかくとして、本当のところ、相沢がエリスに喋らなくてエリスが発狂しなかったならば、ひょっとしたら豊太郎は、天方伯爵と帰国する際はともかく、その後エリスを呼び寄せるくらいのことは「画策」したかも知れませんよね。(実際に鴎外の身に起こった有名な「エリス来邦事件」も考え合わせて。)

 しかしなぜそれをしなかったかというと、やはり根本はエリスの発狂でしょう。彼女が発狂したから、まー、しかたないかと、棄てちゃったわけですよね。
 という風に考えますと、この話のポイントは「エリスの狂」の一点に絞られていきますね。
 しかし、この発狂というストーリー、本当に違和感ないでしょうか。

 つまりそれは、エリスはなぜこんなに簡単に発狂してしまったのかと言うことであります。言い換えると、なぜそんなに簡単に、(「ウラ」も取らず)相沢の言葉を信じてしまったのかと言うことでもあります。
 後に相沢の訪問場面が続く、豊太郎がぼろぼろになって帰ってくる場面は、こうなっています。

 「あ」と叫びぬ。「いかにかし玉ひし。おん身の姿は。」
 驚きしも宜なりけり、蒼然として死人に等しき我面色、帽をばいつの間にか失ひ、髪は蓬ろと乱れて、幾度か道に跌き倒れしことなれば、衣は泥まじりに汚れ、処々は裂けたれば。


 で、エリスがびっくりしているうちに、豊太郎は人事不省になるんですね。そして数日後例の相沢の訪問があり、彼がみーんな喋って、エリスの発狂と。
 でも、相沢が豊太郎の裏切りを語り出した時、普通ならこんな展開になりませんか。

 「嘘よ。あなたは嘘をついているんだわ。あなたの言葉は信じられないわ。私と豊太郎さんの仲を裂こうとしているのね。あの日、豊太郎さんが泥だらけになって帰ってきたのも、このことであなたと諍いがあったからに違いないわ。」

 ……ってあたりでどうでしょうか。
 このへたくそなエリスの科白はともかく、状況としてはこっちの方が自然じゃないですか。
 もしこの考えに納得いただけるならば、この『舞姫』は、さらにどんどん別の物語に展開していくんですが、……うーん、すみません、前言を簡単に撤回して次回に続きます。


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Last updated  2011.12.28 09:07:57
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