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analog純文

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2014.08.25
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  『たった一人の反乱・上下』丸谷才一(講談社文庫)

 この小説は、確か3回くらい読んだはずだと思ってちょっと調べてみました。
 実は私は、1985年から「読書メモ」をつけているんですね。

 以前にも少し触れたような気がしますが、出版社に勤めていた友人に、あれは何か正式名称があったはずですが忘れてしまったのですが、国語辞典の商品見本みたいなもの、つまり外見や本の分厚さは出来上がり商品そのままで、しかし印刷してあるページは初めの10ページほどしかなく、残りの1000ページくらい(この見本は辞書の見本だからですね)が真っ白な本を貰ったんですね。

 で、何に使おうかと迷い、そーだ、「読書メモ」を書こうと書き出しました。
 そのメモが(名前の通り、本当にメモ程度の読後感想が中心なんですが)、えらいもので、いつの間にか全ページ書ききってしまい、そしてその頃友人は出版社にはもう勤めていなかったものだから、私は二代目の「読書メモ」を貰うことができずに、少々不便に思いながら分厚い目の手帳を買って、買って、それも3冊くらいになった時、私は一代発奮しまして、1985年からの読書メモの内容を全部、半年くらいかかってしこしことエクセルに入力したんですねー。
 やー、なかなか、波乱万丈の人生ですなー。(って、何が。)

 おかげで、冒頭の本を何回読んだかなんてこともわかるんですね。
 それ以外にも例えば、私は1985年以降、丸谷才一の本を53冊読んでいるなんてこともわかったりして、……うーん、約30年間に53冊の本を読む作家というのはやはり「フェイバレット」なのかなと思ったりしました。(もうお分かりと思いますが、53冊とありますが、そのほとんどは軽いエッセイ集の再読などであります。)

 ところが今回、我がエクセル資料によりますと、この小説は再読、つまり2回目の読書なんですね。
 ハッと気づいたんですが、そうか初めて読んだのはもっと以前だったんだな、と。

 いわれてみればその通りで、今回読んだのは講談社文庫(これも例の108円×2冊本)ですが、初めて読んだのは今も本棚にある厚さ3センチ弱くらいの単行本で、またこの装幀がとても素晴らしかった。(文庫本2冊も同じ装幀なんですが、絵が小さくて、かなり迫力に欠けます。)
 私はこの表紙に引き寄せられて買ったような記憶さえ、今も残っております。

 というわけで、わがエクセル資料有史以前の読書のため、まったく客観性のない話になってしまいましたが、何が言いたいかといえば、今回3度目の読書でもさすがに面白かった、ということであります。

 実は近年、むかーし読んだ本を読み直して、むかーしと同じくらいの感心や感動をするという経験が、なんか、ほぼないような気がして、ちょっと不安というか淋しいというか、そんな思いでいたわけであります。
 あわせてこの感受性の磨滅不安に、これもきっと関係があるんでしょうが、近年読んだ同筆者の何冊かの小説(再読本も初読本も)についても、今一つ納得しきれなかった読書経験が続いていたのですが、少しホッとしたわけであります。

 で、わたくし、読了後、少し考えたのですが、本書のあらすじは、昔買った単行本の裏表紙に書かれてある「作者のことば」から引用すれば「通産省から天下りした重役も大学教授の娘も物騒な写真が専門の若いカメラマンも主人思ひの女中もそして刑務所がへりの老女も大勢の登場人物がみんなてんでんばらばらに”たった一人の反乱”をおこなふ。」ということであります。

 なるほどその通りで、この誰が号令したわけでもないてんでんばらばらの「反乱」のありかたが風俗小説的にとても面白いのでありますが、これらの「反乱」の中でどの「反乱」が一等出来が良いかと考えれば、それはおそらく「主人思ひの女中」の「反乱」でありましょう。

 事実、その他の「反乱」を生んだ原因の一つがこれではないかという主人公のうがった考察が作品随所に書かれていたり、そしてなにより一番筆者の実感に近い「現代風俗」がこれではかなったかと、私はふと谷崎潤一郎の『台所太平記』などを思い出しながら考えたのでありました。

 ところが作品では「女中の反乱」は作品終盤後景に埋没してゆきます。
 仕方ない展開とも思いますが、代わりに前景に出てきた若い女房の「反乱」は、それなりに面白くはありますが、さてどうでしょうか、驚くような意外性ということでいえば、エンディングに向けてやや守りに入った展開ではなかったか、と。

 ……いえ、本書が、3度読んでもとても面白かったという大前提の上の話しでは、もちろんあるのですけれども。


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Last updated  2014.08.25 14:36:36
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