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2015.07.28
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カテゴリ:昭和期・新感覚派

  『家族会議』横光利一(新潮文庫)

 このタイトルは、一体何を表しているんでしょうね。
 タイトルの意味がよーわからんという小説(特に純文学小説)は、結構ありそうに思えます。
 よいように理解すれば、象徴性って事でしょうけれど、なんか、「もうちょっとなんとかならんかったんですか」と思わず口に出してしまいそうなタイトルも結構ありますよねぇ。

 具体的にどんなタイトルがそうなのか、今ちょっと考えてみたんですが、例えば、徳田秋声の『黴』なんてのも大概じゃないかと、かつて思った記憶があります。
 秋声には『爛れ』なんて小説もあったと思いますが、こちらは読んでいないので、内容と比較してタイトルが大概なものかどうか判断できません。

 で、今回の本作のタイトルですが、これはひょっとしたら横光利一は、少し照れたのかも知れませんね、そんな気がします。
 よーするにこれはホームドラマですよ宣言をした、と。

 本書の解説に、横光利一は昭和十年前後、日本の文芸復興を考えたとき、文学に社会性を盛り込むために「純粋小説」という概念を考え出し、その最初の実験作みたいなのが本作であると書いてありました。

 そういえば横光の「純粋小説」という概念は、高校時代、私が好きだった国語の先生が教えてくださったのを覚えています。

 その先生がおっしゃるには、純文学というのは奥行き・内容の深さはあるが、そのぶん取り上げられた世界が狭い。いわば、間口の狭いウナギの寝床住宅のようなものである。
 一方大衆小説は、起伏に富んだストーリーを持つ作品が多く、しかし例えば「人間」について深く描かれているかと言えば、それはどうもそうとは言い切れない。
 先ほどの例えで言えば、間口は広く、表正面から見れば大邸宅のように見えながら、中に入ってみるとすぐに勝手口に至るような建物である。
 横光の提唱した「純粋小説」とは、大衆小説の持つ間口の広さと、純文学の持つ奥行きの深さを兼ね備えた小説のことである、と。

 高校時代の素直な紅顔の美少年だったわたくしは、その説を聞いて、なるほど「純粋小説」とは、きっとスリルたっぷりに面白くも大号泣という、すっごいすっごい小説であるのだなぁ、と思ったんですね。
 根が単純ですから。頭の造りがアバウトですから。

 今考えたら、そんな小説なら最低トルストイの『戦争と平和』くらいの分量がいるだろう、よーするに大長編小説のことだなと気づくのですが、さて本書『家族会議』は、新潮文庫で317ページであります。
 長編小説といって決して悪くはありませんが、『戦争と平和』の長さ(と内容)には比ぶべくもありません。

 そこで、まー、そんな予感を持ちつつ書き始めようとした横光利一氏が、いや、これは、ちょっと、いえ、ある意味、ホームドラマみたいなものですがね、……と照れて、……で、『家族会議』と。……

 ……いかがでしょうか。
 なるほど本作は、株の世界、今で言うビジネス小説の要素も兼ね備えた「大人の男」が読めそうな小説の結構を持ってはいますが、突き詰めて内容をまとめてしまうと、嫁探しのホームドラマともいえます。

 その上、どういうんでしょうか、ある意味「ハードボイルド」に描かれようとしたためか、主人公(ならびに数名のヒロイン達)の内面に深く関わっていこうという文体は持たず、そしてさらに少し厳しく言えば、ストーリーはさほど波瀾万丈でもなく、ということで、何とも中途半端な感じの読後感を、わたくし持ってしまいました。

 でも、出てくる各場面が少しくすんだ感じで、登場人物をさほど魅力的に書こうとも筆者が思っていないのなら、まぁ、これこそが実験作なのだと言われれば、はぁそんなものですかと思えないわけではありませんが、一言で言えば、殺風景な小説ですわね。

 ただ、横光利一は、この後、さらに「純粋小説」を突き詰めて『旅愁』という、これは新潮文庫で上下2巻、千ページを超えようという作品に着手します。(ただし、時代状況の大きな変化があり未完となり、さらにこの作品のせいで、横光は晩年けっこう辛い状況に追いやられたと聞きます。)

 同じ「新感覚派」の川端康成にも、かなりエッジの立った実験小説がありますが、かたやノーベル賞で、と考えると、人の一生とは実に薄氷の上を歩むがごときものでありますなぁ。


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Last updated  2015.07.28 13:10:02
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