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2015.08.08
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  『燃えつきた地図』安部公房(新潮文庫)

 先日京都の美術館で開催していました「ルネ・マグリット展」に行ってきました。
 マグリットと言えば、知る人ぞ知る20世紀のシュールレアリスム絵画の巨匠ですね。
 有名な作品がいっぱいあります。

 実はわたくし、絵画鑑賞もとっても好きなんですが、好きだというわりには、絵画に対して特に定見もなく、だらだらと絵を見てきました。
 そんな私ではありますが、今回展覧会を見て、マグリットの作品は晩年に一気によくなる感じがしました。

 なぜそう思ったか、つまりなぜ晩年の作品を見ている方が心地がよいのかという理由についてちょっと真面目に考えたんですが、結局のところそれは、作品から精神的な広がりを感じることができるからではないかと思いました。だから深い感情移入ができ、そして、うーん、すばらしい、に至ったのではないか、と。

 でも、そもそもシュールレアリスム絵画運動にとって、感情移入できることは本当によいことなんだろうかと、わたくしはふと気付きました。
 そこでさらにさかのぼって考えてみると、溶けた時間のサルバドール・ダリだとか、陰の毛髪画家のポール・デルヴォーなどを思い出してみるまでもなく、シュールレアリスムにとって感情移入できることは、さほど肯定的な要因ではないんじゃないか、と。
 うーん、なかなか難しいものでありますなぁ。

 さて、我国が誇るシュールレアリスム作家、安部公房であります。
 と書きましたが、文学の場合どこまでをどう「シュールレアリスム」と呼んでいいのか、本当の所、私はちっともわかっていません。

 例えば、詩なら、西脇順三郎って方はかなり本格的な(そして評価も高そうな)シュールレアリスム詩を書いていらっしゃったように記憶しますが、小説になると、はて誰の名が挙がるのでありましょうか。

 とりあえずはやはり安部公房だと思いますが、公房にしたところで、いかにもシュールレアリスムらしいシュールレアリスム作品は、初期の短編と芥川賞受賞の一連の『壁』連作くらいしか浮かびません。

 結局それは、文学は意味からの離陸が極めて困難だからでしょうね。
 意味とは、因果律と言い換えてもいいかもしれませんが、抽象画が、でかいキャンバスの作品でも成立するようには、文学作品は因果律なしには長編作品が成り立ちません。

 (モザイクにするという手はありそうですね。公房の『箱男』なんかはそれに近い感じですし、そこまで含めたら、高橋源一郎なんて作家も含められそうです。)

 というわけで、冒頭の長編小説は、ビミョウにシュールレアリスムな公房作品です。
 ただ読んでみて、やたらと殺風景な感じがするんですねー。
 シュールレアリスム絵画の共通した特徴に作品世界の静謐性があると思うんですが、小説におけるそれは、この殺風景さにあるのでしょうか。

 そもそも安部公房作品には、例えば同時代の三島由紀夫作品にみられるような、文体や描写の絢爛豪華さはありませんでしたが、その代り表現の随所にきらりと輝くような詩性溢れるイメージがありました。
 まずそれが、なんとなーく、本作には感じられません。文体の殺風景。

 次に、前作『砂の女』には確かにあったサスペンス感覚溢れる物語の展開、これもぐぐっと抑えられたような感じです。
 もっとも、砂丘の中にアリジゴクのような家があり、そこに一人の女が住んでいるという、このようにまとめただけでも色彩豊かなストーリー展開が予想される『砂の女』の設定と本作の設定とでは、当然異ならざるを得ないであろうとは思いますが、しかしストーリー展開の殺風景。

 ただこれらの小説の二大要素の抑制が、作品にどんな効果をもたらしたかというと、それはシュールレアリスムがおそらく表現として目指したであろう現代都市文明の孤独と不安にほかならず、その意味では、きっちり効果的にシュールレアリスム小説を成立させています。

 なるほどそう考えると、本作中の失踪者と彼を追い求める現代人の心象風景は、例えばマグリットが描いた空に浮かぶ巨岩の風景が齎す不安感情と、見事に共振しているような気がしますね。


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Last updated  2015.08.08 15:32:19
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