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analog純文

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2020.02.26
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カテゴリ:昭和期・後半女性
  『百年の散歩』多和田葉子(新潮社)

 ドイツのことを何も知りません。
 いえ、居直っているわけではありません。我ながら困ったことだなあとは思いつつも、何といいますか、なかなか、えいやっ!と、改めて西洋史の勉強をしようという気になれないんですね。根がズボラなもので、なんだかとてもしんどそう、と。

 そもそも、私はドイツのことだけを知らないんではないんですね。考えてみたら、ドイツは、私の中ではまだ相対的に少し知識のある国です。
 なぜなら、クラシック音楽やオペラがらみで、ドイツの文化風俗について少し読んだことがあるからです。オペラに少し凝った時なんかは『やさしいドイツ語入門』みたいな本まで読みました。

 しかし、ドイツのことはやはり知らないという気が強くします。それは、ほぼドイツ文学を読んでいないせいでしょうね。いくつか読んだ作品といえば、……えーと、本当に思い出すのも難儀なほどで、ゲーテが何冊か、ヘッセとミヒャエル・エンデが2冊くらいずつ。あとは、トーマス・マン1冊、……カフカは、入れていいのかな?……え、これだけ?

 ま、もう何冊かあるでしょうが、いやー、実に貧弱な読書経歴であります。
 しかし、繰り返しますが、それでも、例えばイタリア文学とか、スペイン文学とかに比べますとまだましであるというところが、実に実に情けない。

 と、そんな懺悔をいたしまして、冒頭の小説であります。
 筆者はドイツにお住まいで、ドイツ語と日本語で小説をお書きになっていて、村上春樹ノーベル文学賞受賞予想が少々賞味期限切れ気味であるここ1年2年、俄然「日本人」ノーベル文学賞候補の一角に躍り出てきたお方でありますね。(まぁ、私のノーベル賞についての予想なんて、ガセネタの最たるものでありましょうが。)

 舞台はベルリン、筆者に近い設定の女性(小説を書いているという記述があります)が、街の有名人の名前の付いた通りや広場を散歩しながらいろいろ考える、という小説です。いえ、本当にそれだけの話であります。

 だから、わたくしも読み始めて2章くらいまでは(全部で10章あります)、主人公は歩いているだけで(店に入ったりはします)、話がちっとも「活劇」にならず、またこれは自閉的なお話を読み始めてしまったものだなぁ、と、少々うんざりしたんですね。

 でも3章あたりから、急に読みやすくなります。
 それは、作品の骨格は変わらないながら、作品がはっきり「そんな随筆」っぽくなってきたからですね。ぐずぐず逡巡するような書きぶりが少しすっきりしてきて、筆者のものの見方や考え方感じ方が素直に前面に出始める、つまり本来の「随筆」の様になってきたからです。

 こうなると、後はこの筆者の感じ方考え方に共感できるかどうかがポイントとなる、いわゆる随筆読書になるわけですね。そんな個所はいっぱいありますが、例えばこんな部分。

​ 外に出るなり大きな犬歯を描いた看板があった。「あまる・しゃきる歯科医院」。トルコ風の名前か。「しゃきる」という日本語があるような気がしてくる。一万年前に房総半島の海辺で貝を集めていた人が腰を伸ばして水平線に目をやり、ふと「しゃきる」とつぶやくところを思い浮かべてみる。その人の身体からはまだアルタイ山脈のにおいが発散されている。ありえない。しゃきる、なんて言うはずがない。なんと言っても終止形すぎる。​

 どうでしょう。こういった少々シニカルな感じ方や表現に違和感のない人は、けっこう楽しく、上記で指摘したように本書の第3章あたりから読み進めることができると思います。

 ところが、そんな「随筆」書きぶりが、もう一転するんですね。
 上記の引用個所には「房総半島の海辺」とか「アルタイ山脈のにおい」などと書かれていたイメージの断片が、徐々に厚みを持った妄想のように展開し始めて、そして、「プーシキン」とか「リヒャルト・ワーグナー」とか「コルヴィッツ」とかの名のついた通りを歩きながら、そこから浮かび上がってくる近代西洋史の濃厚なイメージと、真っ向からぶつかり合うように絡んでいきます。

 読ませどころはこの2種類のイメージの混交を、筆者がどんな筆力で描くかだろうと思います。そして、この気合の入っていく終盤は、なかなか凄みのある部分であります。
 しかしそんな強烈な描写を、私たちのような「素人」が読むには、結構きつい。ちょっとえぐい。

 これは、かなりの「読み巧者」か、或いは私はふと思ったのですが、「同業者」を意識した文章ではないでしょうか。
 そんな「玄人好み」とでもいうべき書きぶりを、本書の終盤三分の一あたりは感じました。

 しかし、トータルとしては、やはりベルリンがテーマであることから、「都会の孤独」や、エトランジェの寂しさ、そして、エキゾチズムといった「ロードムービー」的哀愁の大いに漂う小説でありました。
 本作は、筆者の代表作といったものではきっとありませんが、佳作のひとつではないかと思います。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2020.02.26 11:54:30
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