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2024.09.10
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カテゴリ:昭和期・後半
  『草すべり』南木佳士(文春文庫)

 少し前にこの本の筆者の『阿弥陀堂だより』という長編小説を読みました。(本ブログでも報告しています。)
 割と面白かったので、古本屋で本書を見つけた時に、ほぼ迷わず買ったんですね。
 4作の小説が収録されている短編集ですが、あの長編小説によく似たテイストだろうと少し期待したんですね。

 いえ、よく似たテイストといえば、確かにそうも言えるのですが、その長編小説と大きく異なっているのは、本短編集が一種の連作仕立てになっていて、それがすべて「山岳小説」となっているところでした。

 「山岳小説」――山登りをテーマにした小説があることは私も何となく知っていましたが、ネットで少し調べてみると、明らかに大きな小説の一ジャンルであること、例えば、推理小説とかSF小説とか企業小説とか恋愛小説とかと同じ一ジャンルであることを、恥ずかしながらわたくし、始めて知りました。

 ついでに少しさらに調べたんですね。ネットにあった「山岳小説ベスト100」とかを見ました。
 すると、えらいもので、私は全く一冊も読んでいないことがわかりました。(山岳小説がわからないわけだな、と。)ついでにこのジャンルの小説家で、名前だけでも知っていた作家は、新田次郎だけでした。(私は寡聞にして、新田次郎を一冊も読んでいません。)

 ……あー、世間は広いものだなーと、反省を絡めつつ感じたのですが、そんなわけで、今回の読書は、奇しくもわたくしの山岳小説読書初めになりました。

 で、読みました。
 今「山岳小説」と書いたところでありますが、そこに描かれている主テーマは『阿弥陀堂だより』と同様、医師である主人公が見つめる病や生と死であります。
 それはまー、当たり前といえば当たり前なのですが、本ブログで主な読書対象としている「純文学」やその周辺の小説群は、突き詰めていけば「人間とは」というものがテーマとなっています。いわば本書は、それに山登り描写が絡められて描かれている、というわけですね。

 でもやはり、いかんせん、山岳小説初体験のわたくしとしては、山登りを書いた描写のどこが面白くどこが凄いのかが(全くとは言いませんが)よくわかりませんでした。
 ただそんな素人目で見ても、本書の描写がかなり控えめに描かれていることはきっと確かで、これは、ははん、山登りではあるけれども、それを特別なイベントとして捉えるのではなく、日常(医師としての苦悩の日常)の延長としての位置づけをにじませながら描いているのだなと感じました。

 例えばこんな部分はその最も典型的な部分ですが、初老の主人公が、久しぶりに会った高校時代の女友達と一緒に、かなりハードな登山をしている場面です。(途中休憩のシーンです。)

 アルミホイルにくるんできたキュウリの浅漬けを差し出したら、沙絵ちゃんは二切れ取って、気持ちのよい音を立てて食べてくれた。
 頭上を雲が走る。深い青空、雲、深い青空、雲。

 ありがとう。

 沙絵ちゃんが空になったコップを返してきた。おにぎりを二つ食べてようやく空腹感は消えた。(「草すべり」)

 ……実はこの短編小説には、セリフのひとえカギ(「  」)がなく、前後一行行明けで書かれているんですね。その狙いはよくわからなかったのですが、この個所なんかは見事にそれが効果的になっていますね。
 展開から読むと「ありがとう」は間違いなく沙絵ちゃんのセリフでしょうが、この「ありがとう」の手前までを順に読んでいくと、「ありがとう」は、主人公の、山岳自然に対する感謝の一語のように読めます。(「深い青空、雲」の繰り返しがあったりして、私はそう読みました。)

 私はふと連想したのですが、こういった日常生活の地味な一コマを、研ぎ澄まされたような工夫と文章でさりげなく読ませるというのは、まさに日本文学の、「私小説」の伝統ではないのかと。(そういえばと、私は、小津安二郎の映画もちらりと連想しました。)

 様々な苦悩、それも結局のところ、生きること自体がその原因であるような苦悩を描く小説というのは、まさに文学の本道であります。
 数知れない文学者かそれに取り組んでいき、そして、様々な出口を発見することが出来たりできなかった物語を作品として記録してきました。
 この度の一連の山岳小説群は、いわば「山岳信仰」などにはすぐに結びつくことはない、ひとつの小さな記録の小説なのかもしれません。

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Last updated  2024.09.10 09:35:57
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