コトバの魔法 09
何せ、俺たちのクラスにもいるからだ。天然が。その人は、皮肉を皮肉だと気づかない。聞かれた事に素直に答えて、その裏に隠された本音に気づかない。つけくわえて無用心。つまり、逆から考えて無用心な人は天然だという公式が誕生するわけだ。「で、お前はどうすんだ?俺らも夏休みだろ、来週から」そんな事はとうに決まっている。「バイトして過ごすんだよ。ウチの高校は、バイト禁止されてないからな。稼げるだけ稼ぎたいね」「月曜は終業式だし、もう夏休みなのかもな」「そうかもな」「じゃ、そろそろ俺は行くわ」「それじゃな」手を振りながら、あいつは走り去っていった。さて、と。自転車を玄関脇に止め、家の鍵を開ける。この時間、殆どの場合は祖父母は家にいる筈なのだが、今は初夏の夕方。畑にでも行っているのだろうか?台所に行き、お茶を一口。それからコップを持ったまま二階の部屋に上がる。二階には二つの部屋があり、どちらも洋室。五畳の部屋と七畳の二つの部屋があるが、俺は五畳の部屋を自分の部屋として使っている。どうしてかというと、俺は広い部屋が嫌いだからだ。なんというか落ち着かない。無駄に広いと、余ったスペースが気になってしまう。だから、五畳の部屋を使っている。部屋に入り、鞄を机の横に置く。それからベッドに座り、お茶を全部飲み干した。ベッド脇のテーブルにコップを置き、テレビをつける。テレビでは明日の天気予報がやっていた。コトバの魔法