木村拓哉・母の講演
母が「キムタクのお母さんの講演に行ってくる」と出かけたのは、一昨日のことだ。数日前、婦人会の役員さんから電話があったようだ。「キムタク母が来る講演会があるのだが、孫の運動会と重なっている人が多くて人数が集まらない。ぜひ来てもらえないか」と。特に木村拓哉のフアンというわけではないが、彼を育てた母とやらがどんな人なのか、普通の母なら興味が沸くところだ。「いってくるわ」1,000円の講演に500円の補助が出ることも彼女の気持ちを後押しした。「なんか食育の話らしい」と幾分ガッカリした様子をたずさえていたが、それでも母はキムタク母の口から飛び出すであろう素顔のキムタクに期待を持って、講演に出かけた。帰宅後…。仕事から帰った私に、母はいきなり言った。「騙されたわ」母イワク、講演中はおろか、司会者も進行の人も誰もかも、「キムタク」という単語を発することなく、木村拓哉の「き」の字もないまま、厳かにコトは終了したらしい。「あれ、キムタクのお母さんじゃなかったんやで。話も特におもしろくなかったし、500円返して欲しいわ」珍しくプリプリしている母。「じゃ~婦人会のおばちゃんに文句言ったら?キムタク母はガセでしたよ~って」と言った私に「明日調べてみる」と鼻息も荒くのたまわった。翌日。仕事中に母からメールが入った。タイトル「木村まさ子」本文:昨日の講演会の木村まさ子さんは、紛れも無く、木村拓哉のお母様でした。公演中一言も、誰もそのことに触れずに進行していったのでした。打って変わった反省が行間から伺えるメールである。特に「木村拓哉」と呼び捨てにしながら、「木村まさ子さん」「お母様」と敬称をつけているあたりに、自らの早とちりを恥じる様子が顕著に現れている。というわけで、母は騙されたのでなんでもなく、ただキムタク母の講演を「つまらない」と感想してしまった事実だけが残ったのである。