ヤブ医者に当たるということ
世の中には、「医者運」というのに、恵まれていない人がいる。私の友人もその1人で、彼はよく怪我をしたりするのだが、そのつど「○○はヤブや」と、訪れた病院を非難している。先日も、長年放置していて、いよいよ生命の危険まで危ぶまれるようになった虫歯の治療に取り掛かったのだが、そこの歯医者の文句も言っていた。「どう?歯医者」(私)「あ~、またヤブや」(友人)「また勝手にヤブ呼ばわりして~」(私)「そこな、阪神の選手も通ってる名医やっていう噂やってんけど、駄目やで」(友人)「なんで?」(私)「だってな、この奥歯のめっちゃヤバイとこ以外、悪いとこないって言われてんで。歯茎もきれいって言われてさ」(友人)「いいやん。よかったやん」(私)「けど、去年別の歯医者行った時は、この奥歯以外に4,5本虫歯あるって言われてんぞ」どうやら、彼の弟も時期を同じくして、その歯医者に通い始めたらしのだが、歯茎のことを、弟は痛烈に注意されたらしい。検査の数値、明らかにお兄ちゃんのほうが、悪かったみたいなんですけど。「完全に、通ってくれんな、って意思表示やん」そう言った私に彼は言った。「多分、最初のアンケートに、治療にどのくらいの費用を掛ける気があるのか、みたいなこと書く項目があってんけど、おれ、全部最低限のラインのとこに印いれたからやと思うねん」どうやら、弟は「多少金額がかかっても、きちんと治療したい」という意思を記入したらしい。さらに、彼のおかんも通っているらしいのだが、彼女に関しては「金に糸目をつけず、最高の治療を」と申請しているらしい。「おかんも、弟も、歯磨きの仕方とか習ってるのに、オレは教えてもらってないねん」どうやら、治療方針も、払える金額によって、差別されているらしい。そんな彼の歯医者に付き合う機会があった。と言っても、私は病院の近くでぼんやり待っていただけなのだが…。で、「経過を確認するだけ」と言っていたわりに、なかなか出てこなかった彼は、戻ってくるなり「今さら、虫歯あるとかって、勝手に治療された」とうなだれていた。「よかったやん、治療してもらえて」と言うと、「どうやら、オレとおかんがつながったらしい」と麻酔で感覚がない、という左唇を押さえながら言った。「治療代を出せる者」と判定された彼は、きっと今後は、正しい治療をしてもらえることだろう。