政府が検討している「75歳以上限定免許」で事態はより悪化するのでは?という話。
みなさん、こんにちは。 政府は75歳以上のドライバーに対し、緊急時自動ブレーキや踏み間違い防止システムなどが装備されたクルマにだけ乗れる限定免許の導入に向けて検討を開始したようです。 でもこれ、安全装置のレベルが現在と同じなら、少しも安全性は高まらないどころか、高齢者が免許を維持することにお墨付きを与えるようなもので、返納する人が減って事態を悪化させるのではないかと思います。何しろ現状でも、安全装置付きのクルマでも事故は発生していますし(市原市の事故がそうです)、度々書いているように、現在の安全装置のほとんどは、アクセルを深く踏んだら「ドライバーが回避行動を起こした」として解除されますから、アクセルをブレーキだと信じて思い切り踏み込んでしまう踏み間違い事故には効果を発揮しません。 では、どうすれば良いのか? といえば、「高齢者の特性に合わせた安全装置を装備したクルマ限定」にするというのが、ひとつの解決策です。例えば、キックダウンスイッチ式の暴走防止装置を付けるとか、アクセルを深く踏んでも安全機能が解除されないようにするとか、衝突軽減ブレーキ用のカメラで道路標識を読み取り、制限速度よりスピードが出ないようにするとか、逆走したら強制的にクルマを止めるとか(どれも現在あるハードウェアで可能です)。 ただし、「そういうクルマに買い換えなけらばならない」という大きな問題が残ります(ソフトの書き換えで対応できる可能性もありますが)。年金支給額が減って「老後に備えて2000万円貯めとけ」と言われている現在、75歳でクルマを買い換える余裕がある高齢者は、今後、減ることはあっても増えることはないでしょう。すなわち、ルールだけ作っても「絵に描いた餅」になる可能性が高いんですね。(この施策が「成長戦略」の位置付けにあるあたりから、真の狙いが透けて見えるような気がしますが) それならむしろ、「自分で運転しなくても生活できる仕組み」を作ることを考えたほうが良いのではないでしょうか。手っ取り早いのが、タクシーの利用です。タクシー利用にもお金はかかりますが、クルマの維持費と比較してどうなのか、ちょっと計算してみました。クルマを軽自動車として、10年で償却すると想定しています。車両購入費用 120,000円/年(購入価格1,200,000円)自動車税 10,800円重量税 5,700円/年自賠責 10,985円/年自動車保険 40,000円(安めに見積もっています)ガソリン代 21,000円(年間走行距離3,000km、燃費20km/l、ガソリン単価140円)オイル代 5,000円車検整備等 30,000円合計 243,485円 これに駐車場を借りていたら、それが上乗せされますが、それがなくても年間約25万円の費用がかかることになります。 これを例えば、1回1,000円のタクシー利用(約2.8km)の何回分に当たるかを計算してみると、250回になるんですね。もっとも、行ったら帰ってこなければなりませんから、往復では125回ということになります。そこで行政が補助をして「高齢者のタクシー料金半額」とすれば、片道2.8kmの利用を年間250回できることになります。 年間250日といえば、サラリーマンの出勤日数に相当しますから、ここまで利用する高齢者はまずいないのではないでしょうか。片道利用の距離が5kmぐらいになっても100回以上、利用できますから、かなりの人をカバーすることができるのではないかと思います。 ただしそうなると、タクシーの供給不足が生じることになるかも知れません。しかし、通院や買い物であれば、生活パターンは決まっているでしょうから、特定のタクシー会社と年間スケジュールを組んで、複数の人が時間をずらして合理的に利用できるようにするという方法もあります(IT技術の出番です)。 あるいはUberの配達員のように、手の空いている一般の人が参入できるようにするのも良いのではないかと思います(○年間無事故無違反で75歳以上の送迎限定とか、安全運行のための条件付けは必要になると思いますけれど)。 ということで、新しい免許制度を作って高齢者の運転にお墨付きを与えるより、「自分で運転しなくても済む環境を整える」と言う方向でアプローチしたほうが良いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?