「むこうの台風はお洒落だよね、
女の人の名前ついちゃってるし・・。」
新聞をみながらカズが言った。
「うーんセンスあるよな・・。」
俺はそろそろ出ないといけない時間だったので、
身支度を整えながら答える。
「あ、そうださっきのメロン二人にも切ってやって。」
カズはこの頃ずいぶん料理が出来るようになっているので、
こんな時便利だ。
俺は仲良く風呂にはいっている、
二人の分のメロンのことまで心配しながら、
「じゃあ、行ってこようかな・・。」
重い腰をあげた。
いつものことだけど、
日が沈んだ夜から出勤なんていうのはとてもだるい。
「いってらっしゃ~い。大変だね、社会人は・・。」
カズはニヤニヤしている。
自分だってもうすぐ社会人だろうに、
と思いながらも内心おもしろくなんてない。
三人の中で俺が一番、
クレハといられる時間が短いんじゃないだろうか。
外は雨がふっている、台風が近くまできているからだ。
しぶしぶ靴をはいて、少しだけドアを開けてみると、
強烈に吹き込む風。
それと同時に家の中から
「クレハ!」
と叫ぶ諌山の声が聞こえる。
なんだろうと思って振り返ると、びしょ濡れのまま、
バスローブをはおっただけのクレハが、
俺めがけて走ってくるのが見えた。
「シン!」
飛びついてきた彼女の体をとっさに抱きとめる。
「メロン?メロン?」
と言っている。
「う・・うん、もう冷えてると思うから・・。」
視界の端に生の胸が見えている。
バスローブの前は全開だった為、
俺のスーツに彼女の素肌が直接あたっていた。
「クレハ、ちゃんとふかないと・・。」
諌山に言われたのか、カズがタオルを持ってやってきた。
「あ・・ほんとだ、シン濡れちゃったね。」
なぜかうれしそうに笑うクレハに、
「いいよ・・・ついてからまた着替えるし・・。」
大人ぶって答えながらも、顔がにやけるのが押さえられなかった。
俺達の心をかきまわす、ハリケーンの名はもちろんkureha。
それは、なにもかも吹き飛ばす、最高に魅力的な風。