涙が落ち着くと、
俺に抱きついてきて離れなくなってしまった麻衣を運んで、
あたたかい部屋のベットへおろした。
「シワになるから脱いだほうがいいな。」
なんていいながら制服を脱がしている。
抵抗はせずに、麻衣のしっとりとした瞳が俺を見ていた。
少しだけ不安そうなその顔に、俺は優しく微笑んでから、
「もうおしまいだから大丈夫だよ。」
そういって下着姿になった体に布団をかけてやる。
「どうして?触らないの?」
不思議そうにくびをかしげる麻衣に、
俺は制服をハンガーにかけながら、
「だって・・・麻衣はあれから、
俺といるの辛いんじゃないか?」
と言った。
彼女の体に強引に深く触れてしまってから、
麻衣の態度があからさまにかわってしまっていることは、
否定できない。
嫌われたわけではないようだけど、
あの行為そのものは嫌だったんじゃないだろうか。
たしかに、”毎日裸にして触る。”
というのは約束だったかもしれないが、
無理矢理そんなことして、嫌われてしまうことのほうが、
俺にはつらいことのように思えた。
「そんなことないもん。」
俺の気持ちを知らずに、麻衣が首をふる。
「ただ、お兄ちゃんの顔見ると恥ずかしくなっちゃうの・・。」
泳いでしまう視線に罪悪感を覚えた。
俺が理解してやらなければいけない。
「ほら・・・やっぱりそれは嫌ってことなんだよ。」
残念だと思う反面、少しホッとしている。
それを理由に俺は自分を抑えることが出来そうだ。
「違う。」
横になっていた麻衣は俺に手をのばしてくると、
上体を起こして抱きついた。
「・・・麻衣だけなるから・・・。」
ボソリ、と小さな声が聞こえる。
「え?」
聞き返した俺に彼女は、
「前に触ってもらった時・・・
お兄ちゃんは普通にしてたのに、
麻衣だけ・・・おかしくなったから・・。」
と本当に恥ずかしそうにいって、
俺を抱きしめる腕にぎゅっと力をこめた。
「・・・・おかしくだなんて・・・。」
うまい言葉がみつからない。
そりゃ俺だって、おかしくなってもいいんならなるさ。
怖がらせるんじゃないかと思って、
がんばって理性を保っていただけにすぎない。
「・・お兄ちゃんはどうして麻衣みたいにならないの?」
なのに、わからずやの彼女は、そうとは知らずに俺を誘う。
その強烈に効く罰のような色気で。
「なるよ、もちろん。」
なるべく冷静にそう言った。彼女に嘘はつけなかった。
「だけど、急にそんなことになったら、
麻衣はびっくりしちゃうだろ?」
「どうして?」
「どうしてって・・・。」
俺は少し考えてから、
「俺が麻衣に触るみたいに、
麻衣が俺を触ってくれたら・・・。」
なるよ、と言おうとしたけど、そんなことされたら、
完全に理性を失って、
俺は麻衣に無茶なことをきっとしてしまうに違いない。
「・・・そっか・・・。」
だけど、俺の言葉に納得してしまった麻衣は、
「麻衣が触らなかったから、
お兄ちゃんは普通にしてただけなのか・・。」
納得して安心したようで、俺の胸に身をまかせていた。
どうしよう。
親心にも似た庇護するような気持ちはなりをひそめ、
俺の中の期待がとまらない。
どんどん彼女にのめりこんで行く俺のことを、
麻衣は受け止めてくれるのだろうか。