「どうして?」
まとわりついてくる華奢な体。
かわいらしい瞳が俺を見上げる。
「危ないからさ。」
料理中は火を使うし、包丁だってあぶないから、
俺は麻衣に少し離れてくれるように頼んでいたのだった。
「じゃあ、じゃあね。じっとしてるね?」
一向に離れる気持ちがない彼女は、
少しでも邪魔にならないようにということなのか、
俺の背中の方にまわりこんで、
くっついたまま身動きしなくなった。
それ以上いっても仕方がないので、
俺も無言で食事の支度を続ける。
「お兄ちゃんはお料理も上手だね。」
背中ごしに俺の手元を見ていた麻衣は、
そんなことを言いながら、
また俺の体に自分の体を押し付けたりしていた。
「麻衣。」
我慢できなくなってしまう。
俺はついに火を消して包丁を置くと、彼女にむきなおり、
「ごはん食べれなくなってもいいのか?」
かがんで、麻衣の大きな瞳を覗きこんだ。
「やだ、食べる。」
俺が自分のことを見たのがそんなにうれしいのか、
こっちが見ていて恥ずかしくなるほど、
彼女の顔はニヤニヤと笑っている。
「でも、麻衣がそんなだと、ごはんつくれないだろ?」
俺だってもちろん、早く作業を終わらせて、
いちゃいちゃしたい気持ちはあるんだけど、
これではいつまでたっても、そこまで到達できない。
「・・・でも・・そばにいたいんだもん・・。」
俺の真剣な顔におそれをなしたのか、
少し唇をとがらせて、彼女がいいわけをした。
ため息がでてしまう。
この前まで、恥ずかしがっていたのに、
もうたちなおったっていうのか。
眠る前のあの少しの会話だけで。
「それにね、麻衣も早くお兄ちゃんのこと触りたいの。」
なにもしらないっていうのは怖いことだ。
麻衣は自分が何を言っているのか、
きっと意味がわかっていない。
「あのな・・麻衣・・・。」
拉致があかない会話を続けることに疲れを覚えて、
俺がなんとかいなそうとしているのに、
「今度はいつ触る?」
なんの悪気もなしに、
彼女の無邪気な顔が俺のことを見ていた。
いっそ、本当に触らせてみたらどうなるのだろう。
また、あの若干避けられていたような微妙な空気になって、
それはかえって生活しやすい状態なのではないのか。
「あー、今度は・・・。」
いや、自信がない。
俺はきっと自分を抑えることなんかできなくなって、
麻衣の身体能力の限界をこえて、
流血さわぎにまで発展するおそれがある。
そうならないように、時間をかけることなんて無理だ。
「麻衣ね、お兄ちゃんがよそで他の人とお話しても、
我慢することにしたの。」
俺が黙ってしまったからなのか、
麻衣は俺にぎゅっと抱きついて、そういった。
「だからおうちでは、ずっとくっついてたいの。」
ね?
という顔をして、俺をみあげる。
上の方で二つに結んださらさらの髪が、
ほどよくゆれて、とてもいい香りがしていた。
「麻衣・・・。」
なんてかわいいんだろう。
そして、どうして俺なんだろう。
そこまで想ってもらえるほど、
特になんの特徴も見当たらない俺は、少し不安になってしまう。
「俺だって、麻衣のこと触りたくって仕方ないんだよ。」
いいながら、滑らかな頬に触れていた。
いつ?いつ?、と目を輝かせて聞いた後、
「麻衣もお兄ちゃんとおんなじことするのー。」
うれしそうに笑っている。
「と、とりあえず平日じゃない時にしような。」
そう答えるのが精一杯だった。
仕方がない。
今度の休みまでに覚悟を決めよう。