あの時雪がふっていなかったら、
僕たちは離れてしまっていたんだろうか。
「覚えてる?」
あたたかい部屋の窓から、ふりだした雪に気が付いた僕は、
彼に聞いてみた。
「バスがきてたら別れてたよね。」
長年続いた恋人との結論がだせないままで、
僕と彼は真冬のバス停で、暗くなるまでバスを待っていた。
雪の為、バスがこなかったのだ。
随分考える時間をあたえられてしまった彼は、
寒さで死にそうになっている僕にようやく、
「一緒に暮らそう。」
と言ってくれたんだけど。
あとからあとからふってくる雪に、埋もれてしまいたかった。
そばにいれないのなら、もう生きてても同じだと思った。
「よかった、雪がふってて。」
基本的には無口な彼の返事は期待せずに、
僕はテキパキと部屋を片付けて、
掃除機なんかをかけようとしている。
「それは関係ない。」
と声がして、いつのまにか背中に彼の気配。
僕に腕をまわして、ギュット抱きしめてくれた。
「バスがきても、バスにのっても。
離れても俺は、やがて気が付いて連れ戻したと思う。」
だからあの時のことは許して、と、
つぶやくように言った。
僕だって同じだ。
やがて耐えられなくなって、自分でもどったに違いない彼のもとへ。
「・・・ごめんな。」
本当にすまなさそうに言って、
僕の首にキスをしている彼の頭に手をのばしてなでてみた。
大きな図体をして、こんな彼はとてもかわいらしい。
あたたかい体温に包まれながら、
僕はまるでお母さんみたいにため息をついている。
仕方ないから許してやるか。