広いお城の庭。
テスがゴテゴテしたドレスを手でたくし上げながら、
塀を登ろうとしていた、
忌々しげな様子は、今にもそれを脱ぎ捨ててでもしまいそうだ。
「テス!なにやってんだよ!」
王子のタイミルがちょうど馬にのって帰ってきて、
その彼女を見つけた。
あわてて馬からおりて、
塀にぶらさがってしまっている彼女を両手で抱きとめる。
「離してよ!」
タイミルは王子なのに、テスに足蹴にされ、
もっというと顔面にも蹴りをいれられてたりしていた。
「と、とりあえずおりろって!」
もみあっているうちにテスの手が壁からはなれ、
二人はもつれ合いながら草むらに転倒する。
「ちょっと!なにすんのよ!」
せっかく乗り越えようとしていたのを止められたので、
ただでさえ機嫌が悪そうだったテスは、
ますます怒りがましたようだった。
あばれる彼女を抑えようとしたタイミルの胸をつきとばし、
するどい目で睨むと、
「“なにが刺繍やねん!ダルーてやってられるかいな!”」
すっかりマスターした彼の国の言葉で言い放った。
発音すらも完璧だった。
建物のほうからゲラゲラと笑う声が聞こえて、
タイミルの父である王様の声で、
“尻にしかれとんかー”
なんて聞こえている。
「別に刺繍なんておいとけよ、服も、好きな服着ればいい。」
つぶやくような声で頭をかきながらタイミルが言った。
「”絶対やな?”」
彼女が聞くと。
「ああ。」
タイミルは答えたあとで、
「お前、俺より地元言葉だな。」
と続けたので、今度は顔面でなくハラに一発、
グッと堪えて息が出来ないほどの蹴りをテスに食らわせられていた。