天然力 銀座ぶりゅっと
銀座で『アール・ブリュット展』と『祖父江慎+cozfish展』を観てきた。午後銀座に行き、まだ昼食を食べていなかったのでどこかへ入ろうと歩き回ったが、なかなかちょうどいい店が見つからず、結局ドトールコーヒーに行って新商品だという卵サラダベーグルとアイス・カフェティラミスを注文したら、声が聞き取りにくかったのか店員がきょとんとしているので、壁に貼ってある写真を指さしてあれのMですと言ったら、はいSですねと言われ、もう一度Mですと言い直したらやっと聞こえたようだった。俺の声ってそんなに聞き取りにくいか。一階の窓際の空いている席に座ったら、両隣にいた書類を広げていたOL風の女性が席から立ち去ったので、そんなに俺は仕事の邪魔なのかと言いたくなったが、ゆったり座れてよかった。卵サラダベーグルは妙に粒マスタードが沢山塗ってあって、とても辛くてこれは塗り過ぎてしまったというより嫌がらせなんじゃないかと思ったりしたが、でも半分ぐらい食べてしまったので今から文句を言っても言いがかりをつけていると思われるのでそのまま食べた。後ろのレジの所に行列ができていて、その中にハーフっぽい彫りの深い顔の綺麗な女性がいて横顔に見とれてまった。久々に文房具や画材のある伊東屋行ってみたが、欲しい物が沢山増えて困りそうだったのですぐに出た。松屋銀座に入ってみたら、お金持ちの有閑マダムっぽい派手な年輩の女の人が沢山いてさすが銀座という雰囲気だった。アップルストア銀座へ寄った後、家でプリントしてきた地図を頼りにハウス・オブ・資生堂で開催中の『アール・ブリュット展』へ。精神病患者や監獄の囚人など美術教育や商業主義の外部にいる人々の作品は世田谷美術館の『アウトサイダーアート展』等で強烈な印象があったし、以前から興味を持っていたので今回の展覧会も楽しみにしていたのだが、ヘンリー・ダーガーの男性器のある少女達の登場する物語絵巻の一部やオーギュスト・フォレスティエの木片を集めて作った謎の生物の玩具やオーギュスタン・ルサージュの曼陀羅のように細かい絵など作者の強迫観念がこちらにまで伝染しそうに感じる程どの作品もパワーに溢れていて圧倒されたし、奇天烈さに笑ってしまったりもした。銀座という高級ブランド店が並ぶような場所の化粧品会社が運営するギャラリーで展示されている事なんて、ここに飾られた作品の作者達の創作意欲とは何の関係もないのだろうと思うと妙な感慨もあった。その後で銀座グラフィックギャラリーで開催中の『祖父江慎+cozfish展』へ。書店で面白い本を見つけて装丁の名前を見ると祖父江さんであることが結構ある。その仕事にみられるサービス精神の旺盛さは今回の展覧会の展示にも反映されていた。入り口付近に貼ってあった祖父江さん本人の写真もお茶目だった。一階は主にしりあがり寿や吉田戦車、とりみきといった漫画家の作品の装丁が多く展示されていてかわうそくんの歌が会場に流されていたり、本が天井から吊されていたりした。壁に貼ってあった指示書には、細かい指定の脇に茶目っ気のある落書きがあったりして、こんな風に楽しそうに仕事をしているのかと興味深かった。地下に行く階段には怪談新耳袋(駄洒落?)が並べてあった。地下は小説や絵本、アラーキーなどの写真集が展示されていた。凝った特殊加工もしっかりした基本に支えられ、奇抜なだけではなく内容と寄り添う物になっているし、手にとって読みたくなるような、本の物としての喜びに溢れたデザインだ。真っ白な紙の本があると思ったら、作品集の刊行予定が書かれていた。再びアップルストア銀座に行き、透明なドアのエレベーターに乗って上の階にも行ってみた後で、お茶でもしようかと喫茶店を探して歩き、コージーコーナーがあったので二階でコーヒーとチョコケーキ。帰りに渋谷のブックファーストへ行き、『アール・ブリュット展』の会場でも売っていて買わずに出たのだが、もう一度立ち読みしたら欲しくなったのでアールブリュット特集の芸術新潮を購入。夕食を渋谷か下北で食べようかと思ったが、花金で飲んで騒ごうという人が多いのかどちらも混んでいてうんざりしたので、コンビニでネギトロ巻きとすじこのおにぎりと発泡酒を買って帰って家で食べた。テレビで主役の俳優が郷ひろみに似ている映画『ダンジョン・アンド・ドラゴン』を放送していた。アップルストア銀座にアール・ブリュットのいっちゃってる作家達にしりあがり寿に吉田戦車に赤塚不二夫にアラーキーに祖父江慎にと「天然パワー」を感じた一日だった。あるいは「ラディカル」と言ってもいいかもしれない。アップルは“Think Diffrent.”を企業広告のコピーにしていたし、ヒッピーカルチャーから出発したようなアウトサイダー指向を感じさせる企業であり、より直感的なコンピューターを目指していて、ジョブス達の閃きが製品の革新性に繋がっているようにも伺えるし、祖父江さんの仕事もあえて乱調のような装丁をしてみたりしていて天然ぽい可笑しさにこだわっていそうだし、漫画家や小説家や写真家達から美味しいところを引き出して活かそうという姿勢が「天然パワー」だし、特殊印刷を使って実験的な事をやろうとする姿勢も「ラディカル」だ。夜咳が出てしまったので漢方薬を飲んだ。