雨の夕暮れ
暖かくなって日が長くなったせいか、授業が始まってもなかなか教室に入らない生徒が増えてきた。冬の間も授業中に出歩く生徒はいたけれども、木の洞で冬を越す虫のように校舎の中の一角に固まっているから見つけるのも楽だし、注意すれば寒い廊下よりはストーブのある教室がいいと思うのか、渋々ながらも教室に戻っていく。だけど今の時期は2時間目が始まっても外は明るく過ごしやすいせいで、校舎の外、駐輪場やグラウンドの隅に固まっている生徒が目につく。空いている先生が校内を見回って注意して回るけれども、教室に向かう振りをしながら別の場所に移動するヤツもいるから、始末におけない。そんな風に好き勝手に過ごす生徒だけれど、全日制の生徒がいる場所には近づこうとしないのは、ある種の後ろめたさがあるのだろうか。全日制の生徒のかけ声が飛び交うグラウンドの隅には、ベンチがいくつもあるのに、そこには人影がなく、家路に向かうはしゃいだ声が溢れる生徒昇降口から校門へ続く道に座り込む生徒もいない。朝からの雨が静かに学校を濡らし、全日制のざわめきがゆっくりとひいて定時制の生徒のざわめきへと変わるひととき、窓辺でぼんやり外を眺めている僕の横に、いつの間にか生徒指導部長をしている背陰性が来ていた。「この雨だから、今日は外を出歩くヤツはいないかな」どこかホッとしたような響きの声が右耳に届いた。