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テーマ:中国茶好き集まって!(926)
カテゴリ:お茶
渋谷の華泰さんには、たまに「誰が買うの?」と思うような、珍しいお茶が入荷することがあります。
このへんが老舗の懐の広さを感じられて、面白いなあと思うところなのですが。 ・・・ということで、今日のお茶は港口茶。 ↑そういうお茶は、私のような人が買うわけですね(^^;) 台湾の一番南に位置する屏東縣。 その満州郷港口村で作られているお茶です。 台湾をサツマイモの形にたとえることがよくありますが、そのたとえで行けば、一番南の先っぽ(しっぽ)の部分。 この一帯は、墾丁国家公園という国立公園に指定されています。 近隣には、奇岩が連なることで有名な佳楽水、台湾の南の端っこにあたる鵞鑾鼻灯台、フィリピンと台湾の境にあたるバシー海峡に向かって、「まるで猫がうずくまっているように見える」ということで名付けられた岬・猫鼻頭などがあります。 台湾の南の端っこですので、完全に熱帯に属しており、南国ムードに溢れています。 海岸沿いには高級リゾートホテルが立ち並び、台湾の中でも珍しいリゾート地域になっています。 私も2度ほど行ったことがありますが、どこかの南の島と錯覚します(^^;) このお茶、作られている場所も熱帯真っ只中の低地という、面白いお茶なのですが、それ以上に生育方法や製茶の方法が変わっていることでも、台湾唯一のお茶なのです。 #だから、飲みたかったのです♪ 港口茶の主要品種は、200年ほど前に福建省から移植された武夷種です。 面白いところとしては、この武夷種を実生繁殖(有性繁殖)させているところにあります。 <キーワード:有性繁殖と無性繁殖> 茶は自家受粉ができない(自分の花粉では受精しない)という特性を持っています。 そのため、茶の実をつくる(受精させる)ということになると、他の樹と交配することになります。 交配ということは、別の樹の特性も引き継いでしまうので、親の持っていた個性がそのまま受け継がれなくなってしまいます。 極端な言い方をすると、茶の実を使って増やす(有性繁殖をする)と、雑種になってしまうわけです。 これはこれで、面白い個性を持った茶樹(品種)に化ける可能性もあるのですが、逆の言い方をすると、現時点で持っている良い品種特性が薄れてしまうことも考えられます。 さらに茶樹ごとの成長スピードが違ってしまったり、茶葉の個性が違ったりして、製茶をするのも難しくなってしまいます。 お茶を大量生産をしていく上で、それは困ります。 #単叢などは、有性繁殖によって多くの香りのパターンが生み出されている例です。ただ、他の樹の葉と混ぜると、わけの分からない香りになってしまうので、一本の樹から取った葉を製茶する(=単叢)になるわけです。もっとも、最近、低地などで作られる普及品は接ぎ木(無性繁殖)で作っていますが。 そこで普通は、無性繁殖という挿し木や接ぎ木などの方法で増やしていきます。 樹の一部を切り取って、土に差して増やしたり、別の植物の幹に接いだりするわけです。 これは、いわゆるクローンですので、DNAの配列などは全く同じものになります。無性繁殖によって、コピーができるわけです。 (余談) 岩茶でとっても有名な大紅袍。これも有名な母樹から挿し木で増やしています。 大紅袍は品種名です。一部のお店で、大紅袍の”二代目”とか”三代目”とか言うケースがありますが、品種に二代目も三代目もないので、ナンセンスです。 大紅袍は、挿し木して増やしたクローンである限り、大紅袍という品種なのです。何代目と称する意味が分かりません。 ましてや「これは二代目だから美味い」とか「大紅袍は、三代目以降は小紅袍になる」とかいうのは、大嘘です。 もちろん、品種が同じでも、生育環境や土壌(岩茶の場合は岩ですが)によって味は変わりますので、これらの条件が母樹に近い、という意味で美味いというのなら話は別です。 なお、実際に土産物として売られている大紅袍は、水仙など普及品の茶葉を何種類かブレンドして作り上げた、商品名”大紅袍”というお茶も多いようです。というのも、大紅袍という品種は、挿し木でも増やしていくのが難しく、量があまり確保できないのだそうです。 #またお茶屋さんに嫌われそうなことを書いてしまった・・・。でも事実です。 (余談終わり) ・・・というわけで、港口茶は有性繁殖させた武夷種を使っているため、1つ1つの茶樹の個性が豊か。それをまとめて製茶するため、香りのパターンや味わいのパターンに複雑さが生まれるわけです。 #その分、茶摘みの時期がバラバラになったりするので、製茶は難しくなるのですが。 しかも挿し木法ではないので、茶樹の根っこがしっかりしています。 元々、実生繁殖させたお茶の樹は、直根が地中深くに真っ直ぐ伸びるため「移植できない」と言われるほど、丈夫なのです。 だからこそ、この過酷な熱帯の真っ只中の平地で、お茶がしっかりと育っているわけです。 本当に不思議な茶産地だと思います。 そして、もう1つの面白い点が製法です。 まず、このお茶は台湾茶の中では珍しい”緑茶”です。 しかも、その作り方がちょっと変わっているのです。 烏龍茶であれば、茶摘みのあと、日光萎凋・室内萎凋の工程を経て発酵させるのですが、それをしません。 そのまま、釜に放り込み、釜の中で揉捻します。そして、じっくり弱火で表面が灰白色になるまで炒り続けます。殺青、揉捻、乾燥までを1つの釜の中で完了させるのです。 この製法は、大陸中国で作られている、眉茶の製法と同じです。 というわけで、引っ張りに引っ張りましたが(笑)、茶葉です。 少し丸まるように曲がった茶葉で、表面が白っぽくなっています。 輝鍋という炒青緑茶特有の工程を経た証拠の色です。 そして茶水。 少し香ばしい香りが漂います(^^) 火によって作られた香りなのか、武夷種の特徴の香りなのか、少し甘い香りもします。 一瞬、やっぱり烏龍茶だったっけ?と考えてしまいます。 口当たりは思ったよりも優しく、さっぱりとしています。 ほうじ茶に近い感じなんですが、それよりも複雑な変化をするんです。厚みのある味わいです。 少し渋みも出ますが、裏側に甘さも感じます。 うーん、表現が難しい(^^;) 煎を進めていくと、グッと味は薄くなっていって、なんだか岩茶肉桂をトコトン煎を重ねて味がしなくなった状態?に似てきます。武夷種に共通する、品種の味が出てくるのだと思います。 やっぱり武夷種なんですね。 茶殻を見ると、濃い色の茶葉もあれば、薄い色の茶葉もあり。 個性溢れる茶葉を一緒に製茶したんだなぁ、というのが伝わってきます(^^) 不思議な不思議な港口茶。 見かけたら、是非味わってみてください(^^) え?マニアックなお茶の方が気合いが入ってますか?(^^;) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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