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中国茶・台湾茶と旅行 あるきちのお茶・旅行日記(旧館)

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2009.05.06
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カテゴリ:茶の種類・品種
私、いろんなお茶を飲んでますが、極力、このブログには書かないようにしているお茶がいくつかあります。
その中の1つが、大紅袍です。

理由は、

非常にややこしいから

これに尽きます。


本物の大紅袍と言った場合に何を指すのか、これが共通認識として確立されていないと怖くて書けない、というのが本音です。

伝説が一人歩きしている上に、思い入れが強い方も多いので、迂闊なことは書けません。


・・・しかし、やはり真実は追究されるべきです( ̄ー ̄)ニヤリッ


実は、大紅袍については、とても気になっていたのです。

なにしろ、人によって言うことが全く違います。

「どれが事実だ?」と聞くと、「私が言っていることが真実だ」とみんな言います。
#中国茶の世界にありがちなことです。


こういう伝説でガチガチになっているようなお茶を見ると、絶対に真実を見極めたい、そう思ってしまうのです(←あまのじゃくです)

消費者を惑わす中国茶の噂話や伝説。
こういうものを断ち切って等身大の中国茶を知りたいがために、私は中国茶の勉強をしています。

おかげさまで、評茶員の勉強をしたおかげで、中国の国家標準が読めるようになり、さらに先日、杭州で品種の先生の話を伺い、質問もしてきました。
加えて、中国のあちこちのサイトを調べたり、お茶屋さんで聞いた話などを色々総合した結果、ようやく全体像が掴めるようになってきました。
#まったく、小さな真実であっても近づくのには大変な労力がかかるものです(^^;)

そこで、ちょっと大紅袍の伝説をぶった切って、本物の大紅袍とは何かについて、書いてみようと思います。


* * * * * *


まず、日本で流通している大紅袍の説を整理してみます。


<説1>原木で作られたお茶のみが大紅袍であるという説

2002年にわずか20gがオークションで19万8000元で取引されたという、例の崖に生えているヤツです。
この茶樹から作ったお茶が、本物の大紅袍であるという説。それ以外は偽物!となります。

→文句はありませんが、ひとかたまりのお茶だけが本物の大紅袍ということになると、「一般に流通しているのは何?」ということになります。蘊蓄としては良いでしょうが、一般の消費者には全然役に立たない定義です。というか「貴重なお茶を飲んだことを自慢したいだけか?」と思います。



<説2>大紅袍とはブレンドであるという説

大紅袍を飲んだ人がそれをイメージし、様々な岩茶をブレンドをして作ったものが大紅袍であるというものです。
この説では、つまり、大紅袍というのは商品名・ブランド名であるといえます。
そうである以上、ブレンドした茶葉の品質とブレンド技術によって、味は大きく違うということになります。

→イメージで行くとコーヒーの「ブルーマウンテンブレンド」みたいなのに近いですね。ただ、ブレンドと言っても、この場合は”イメージに近づけている”だけなので、大紅袍の茶葉が全然入っていなくてもOKなわけです。



<説3>原木から挿し木して増やしたものが大紅袍であるという説

原木を挿し木して増やしたもの。つまり品種としての大紅袍というものです。
挿し木は、いわゆる無性繁殖というやつですので、完全なクローンができます。
品種が大紅袍であるものだけが大紅袍である、という説です。

→二代目、三代目とかいう話もこれにくっついてきたりしますが、これはただのお茶屋のセールストークだと思います。いわゆる似非科学でして、無性繁殖やクローンという言葉の意味を知っていたら、「そんなわけないだろ」と即座にツッコミを入れられる内容です。もちろん、土壌などの生育条件に違いはあると思いますが、それは正岩茶・半岩茶・洲茶という分類で、ある程度整理できるはずです。



さあ、正しいのはどれでしょう?





結論から先に行きましょう。





3つとも正しいけど、それだけが本物と言い切るのは間違い




が、正解です((((((^^;

現地の基準で行くと、これらはみな大紅袍なのです。


* * * * * *

<説1の検証>
まあ原木を持ち出されたら、「それは、そうでしょうね」ということになります。
ただ、問題なのは、これだけを本物とすることです。

原木のもののみが本物だとしたら、市中に出回ってるのは偽物ばかりとなります。
いくらニセモノ大国(←失礼)とはいえ、中国政府がそんなことを認可するはずがありません。

なので、説1の”それ以外はすべてニセモノ”というのは間違いです。


<説2の検証>
次で説明しますが、今は無性繁殖技術によって”大紅袍”という品種が存在します。
その技術ができる前は、大紅袍を増やすことは不可能でした。
お茶の種から増やす有性繁殖では、品種が別のものになってしまうためです。

しかし、大紅袍の伝説性はとても強く、何とかしてこれを活かしたい!
地元の振興を考える地域政府の当然の考え方です。

そこで商品名として大紅袍という名前をつけることが許されました。
これをきっかけに各製造会社が大紅袍という名前のブレンド商品を発売しています。
会社によってだいぶ個性は違うようなのですが、農家には「今年の大紅袍はこれね」と製作見本(サンプル)が出回るのだとか。

武夷岩茶の国家標準には、大紅袍の品質基準が掲載されています。
しかし、それをよく見ると、武夷岩茶全般について”適正な品種を使え”とは書いてありますが、”大紅袍は大紅袍品種に限る”とは書いてありません。
拡大解釈ができる余地が残されています。


つまり・・・

基準に達していれば、(ブレンドでも)大紅袍でも良いよ

ということになります。

だから、大紅袍というのは商品名であり、ブレンドの種類であるという定義も間違ってはいないことになります。


ただし、それが全てではありません。
純種大紅袍というのもあるからです。


<説3の検証>
1990年代の初めに大紅袍の無性繁殖が成功しました。
原木の中の1本を選抜し、これを大紅袍として武夷山市の茶葉研究所が育てたものです。

こうして育てられた大紅袍品種は、現在では4万畝(1畝は6.667アールなので、2668ヘクタール)以上も栽培されているそうです。
今や、水仙や肉桂に次いで広く栽培されている品種が大紅袍となっています(純種大紅袍)。


さて、ここで疑問が出てきます。
知名度のある大紅袍ですから、その品種は省級品種や国家級品種として登録されていても良さそうなものですが、残念ながらそうはなっていません。
これを根拠に、「そもそも大紅袍という品種はないのでは?」とする方もいます。
しかし、それは品種認定のプロセスを知れば、「そういうこともあるな」と思えます。


国や省レベルの品種認定を受けるためには、様々な場所で栽培し、その品質が一定であることを証明せねばなりません。
品質の安定性を見るには、最低10年はかかり、その後、病虫害や耐寒性の検査なども受ける必要がありますので、品種登録されるには、なんだかんだで20年以上かかるのが普通です。

大紅袍の無性繁殖が成功したのは1990年代初めとされています。
となると、まだ20年経っていない新しい品種です。
だから、品種認定の手続き中と考えるのが、妥当なわけです。


「・・・何を根拠に、こいつは言っているのだ」と思われるかもしれませんので、偶然引っかかった公的資料をご提示しましょう。
武夷山市茶業局が提出した大紅袍品種認定のための予算申告書です。URL
#予算を一生懸命取っている段階なわけです。


最初の一文から、「大紅袍は商品名として、品種としても作られているのは、共通認識である」と、かなりパンチのある文章で始まっています(^^;)


* * * * * *


というわけで、色々な文献や国家標準などを総合すると、現地では主に“ブレンド大紅袍”と”品種(純種)大紅袍”の2つが流通していると考えられます。
#これでも、説1のみを大紅袍と呼びたい人は、「やぶきたも原木以外は認めない!」と仰っていただかないと困りますね(^^;)


ブレンド大紅袍と純種大紅袍のどちらが本物か?というのは全く意味のないことで、武夷岩茶の大紅袍の国家標準をクリアしていれば、どちらも本物の”大紅袍”です。
国がそう決めているのですから、異論があっても仕方ありません。

※とはいえ、これもひょっとしたら変わっていくものかもしれません。
国家標準は頻繁に見直しが入り、実勢にあわせて変わっていくからです。
大紅袍品種の拡大が進めば、どこかで見直しの機運が出てくると思います。
だから、最新情報をキャッチアップし続けないといけないんですよねぇ・・・



ただし、消費者としては、実は大問題です。
同じ大紅袍でも、ブレンド大紅袍と純種大紅袍では、品質のブレが大変大きいものになるからです。
大紅袍という名前だけでは、欲しい味のお茶にありつけない可能性が出てきます。
これは消費者にとっては由々しき問題です。


こと、ブレンド大紅袍に関して言えば、何をブレンドしたのかによってお茶の特性が全然違うものになります。
つまり、同じ大紅袍という名前でも、全く個性の違うお茶であることがあり得ます。

だから、大紅袍というお茶は、名前だけでは指名買いしにくいお茶でもあるわけです。


一方、純種というのは、品種が一定ですので、味の傾向はある程度予測はつきます。
私の印象では、とてもクリアで華やかさも持っているのが、純種大紅袍の特徴ではないかと思います。

・・・とはいえ、これまた買いにくいのです。

それは、日本で純種の大紅袍ときちんと明示してくれるお茶屋さんが、大変少ないからです。
日本国内で大紅袍の定義というものが、きちんとしていないからなのかもしれません。


大紅袍も、様々な伝説のくびきから逃れ、分かりやすく日本のお店の店頭にも並んで欲しい、そう思うのです。

猿が茶摘みしようが、赤いマントをかぶろうが、そんなものはお茶を選ぶ人にとっては、全く関係ありません。
ブレンドだったら、ブレンドでも良し。純種なら純種もまた良し。
それぞれの個性をきちんと表現してもらいたいものだと思います。




(余談)
ちなみに、

「実はあそこに植わっている大紅袍はニセモノ。政府の役人が来ると聞いて、地元の人が貴重な木がダメにされてはマズイと考え、適当な木に植え替えたのだ」

という、恐るべき噂話もありますが、今まで書いてきた内容がすべてパアになる上、真偽の確かめようもないので、この話は無視することにします(爆)

・・・本当にお茶の伝説というのは、消費者を惑わせるものです(^^;)



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伝説も聞いてる分には楽しいんですがねぇ(^^;)





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Last updated  2009.05.06 22:16:36
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