【2017年2月23日追記】
茶藝師資格、国家職業資格に復活しました。
詳細は、新ブログにて。
https://arukichi.teamedia.jp/chageishi-syokugyoshikaku-fukkatsu/
以下の記述は、2017年1月現在の情報で古いです。
先日、先行してSNSに投稿したところ、みなさんの関心が高いようなのと、限られた文章量では誤解を招きかねないので、こちらで少し詳しくレポートします。
※後述しますが、現在、制度変更の真っ只中にあるので、これは2017年1月現在の情報としてお考えください。
<そもそも茶藝師資格って?>
茶藝師は、1999年に『中華人民共和国職業分類大典』に掲載され、『茶藝師国家職業標準』が定められました。
これは「茶藝師」という職業が、国家から約1800ある職業の1つとして認定されたということを意味しています。
2001年には『茶藝師国家標準』が制定され、茶藝師の育成プログラムが始まります。
2002年の『茶藝師国家職業標準』改訂時には、初級茶藝師(国家職業資格五級)、中級茶藝師(同四級)、高級茶藝師(同三級)、茶藝技師(同二級)、高級茶藝技師(同一級)という資格のクラス分けが確立しました。
たとえば、初級茶藝師になるための基礎的な条件としては、その職業に見習いとして従事して2年以上。中級茶藝師の場合は、初級資格を取得後、3年以上の実務経験などが定められていました。
この資格は、茶館などで働く従業員の技能水準(主にお茶をお客様に提供するのに必要な知識と技術、礼儀作法など)を認定するという位置づけであり、いわゆる「国家職業資格」の1つでした。
国営や政府の色が濃い企業などでは、この資格が昇進要件の1つに入っていたりしていました。
そのような中国で働く人のための資格ではあったのですが、「国が認定する資格」という性質からか、”いちばん箔が付きそうな中国茶の資格”ということで、日本人の取得者も大勢いる資格です。
中級(四級)職業資格証書
<職業資格って何?>
日本人にとって「国家資格」と言われれば、弁護士、税理士といった、いわゆるサムライ商売だったり、医師や教師などの特殊な技能を用いる職業を思い浮かべます。
中国における「職業資格」にも、そうした職業は勿論含まれていました。
が、それ以上にもっと多様な職業に設定されていました。
たとえば、「収銀員」という職業資格がありました。
いわゆる”会計係”のことで、国営の古いスタイルのお店に行くと、接客してくれた販売員さんはお金を受け取ってくれず、別の所にあるレジ(収銀台)に連れて行かれます。
これは、販売員と収銀員の仕事は別で、それぞれに職業資格が設定されているためです。
”収銀員の職業資格が無い人が、お金を扱うのは御法度”
というのが、これまでの中国のシステムでした。
仕事がかなり細分化されていて、それぞれの職務内容を国が規定していたのです(その根拠文献が『国家職業標準』)。
そのため、「○○の職業に就くならば、○○の職業資格を取得しなければならない」というのが、一部の企業では就業ルールだったわけです(民間企業はあまり囚われていなかった面はありますが、何か問題が生じて行政指導が入れば「職業資格はあるのか?」という話になります)。
このため、資格取得をしなければいけない。しかし、それにもお金がかかる(資格ビジネス化が盛んなので、お金を出せば資格は「買える」という機関もあったとか)。
結果、若年層の就職にも悪影響が出ていたようです。
日本の感覚だと「何と面倒な仕組み!」と思うかもしれませんが、なにしろ中国は社会主義国。
「職業選択の自由、アハハン♪」を謳歌できるのは、日本のような資本主義の国だからこそのこと。
原則自由が認められているようでも、色々な制度による有形無形の規制があったというわけです。
「職業資格」ってのは、そういう一面も持った仕組みだったわけです。
<李克強首相主導の行政改革>
ところが、中国の国家職業資格制度が大きく変わってきています。
発端は、2014年6月4日の国務院常務会(国務院は内閣に相当。常務会は定例の閣議で週1開催)。
ここで、李克強首相が「職業資格」の見直しについて言及しました。
趣旨としては、
・職業資格の数が多すぎる(この時点で618の資格があった)
・国家で認可するべき資格のみに70%以上削るべし
というものです。
これを受けて、人力資源社会保障部(かつての労働和社会保障部。2008年に人事部と併合され、この名前になりました)が中心となり、国家職業資格の見直し(統合・取消)を実施。
以下のように、段階的に資格の見直しを行ってきました。
2014年 7月22日 第1弾。11の資格が取消
2014年 8月20日 第2弾。67の資格が取消
2015年 2月24日 第3弾。67の資格が取消
2015年 7月20日 第4弾。62の資格が取消
2016年 1月22日 第5弾。61の資格が取消
2016年 6月13日 第6弾。47の資格が取消
2016年12月16日 第7弾。114の資格が取消
最終的に434の資格が取り消され、実に70.2%の資格が国家職業資格から外れました。
昨年12月16日には、一通りの整理が終わったリストが発表され、国家職業資格は全部で151に絞られました。
内訳は
・専門技術を必要とする職業資格(教師、弁護士、会計士、医師、建築士など) 58
・技術者職業資格(消防員、ボイラー技士、保育員、保安員、面点師など) 93
となりました。
基本的には、国民の安全や財産を守ることに直結するようなもののみ国家職業資格として残し、それ以外の資格については大幅に削ったという印象です。
日本の国家資格と同じような水準に落ち着いた、と言えそうです。
中国も普通の国になったということでしょうか。
認定機関にも変化が見られます。
専門技術を必要とする職業資格こそ、以前のように「○○部」といった政府直轄の機関が認定していますが、技術者職業資格については「○○業界技能鑑定機構」といった、業界団体などでつくる外部の組織が認定するものの比率が圧倒的に増えました。
<制度変革の狙い>
今回の職業資格制度改革について、李克強首相や政府側の発表している内容を読み解くと、以下のような狙いがあるとしています。
○就業や創業の活性化
これまでは、あまりに多数の職業資格があり、何かの仕事に就く、あるいは仕事を始めようと思っても、その職業に関する資格証書を取らなければいけない、という面がありました。
仕事を変えようと思ったら、まずはどんな職業資格が必要かを調べて、それの認定校に通って、資格を取って・・・ということで、人材の流動性が損なわれていた、ということのようです。
確かに、これまであった職業資格のうち、日本人の感覚からして「えっ、これも職業資格になっているんですか?」というのは、例えば以下のようなものです。
・ファッションモデル
・カメラマン
・カラーコーディネーター
・ホテルのフロントスタッフ
・鉄道の切符販売員
などなど。
廃止された資格を見ると、こんな感じのものがズラズラ並んでいるので、まあ納得できるものがほとんどです。
職業資格ビジネスが活発化するという面はあるのですが、それ以上にマイナスの方が大きいので、このへんの規制を取っ払う、というのが一番の目的であるとされています。
○行政機構の肥大化を防ぐ
これまで職業資格は、商務部、農業部などの国家の省庁が所轄するものとしていました。
そうなると、その省庁の末端の行政機関(たとえば農業部なら茶葉研究所とか)が、この資格に関する教育などのビジネスを行うことになります。
それが業務のほんの僅かであれば良いのですが、実際にはかなり資格ビジネスが過熱化している現状がありました。
国の出先機関が、本来の業務をするのでは無く、資格ビジネスの要員として追加で人を雇ったりしはじめると、それは国の機関として、一体どうなのか?という疑問が出てきます。
特に国からの予算以外に、収益を生む場があるとなると、それこそ癒着や不正などの腐敗の温床にもなりかねません。
習近平政権が誕生以来、最も力を入れているのは腐敗撲滅です。
このようなことから、国の機関から職業資格に関する事業を切り離し、行政機関を本来やるべきである仕事に向かわせる、という面もあるようです。
○公的機関による資格の粗製濫造を防ぐ
ある地方では、ネイルアーティストの資格を地方政府が設け、その認定を国家職業資格のように5段階で実施したりしていたようです。
本来、このようなものは民間に任せるべきですが、公的な職業資格にしてしまうと、どうなるか。
政府は行政指導が出来ますから、その地方で商売をするなら、この職業資格を取得しなければいけなくなります。
その試験や養成講座を地方政府の出先機関が主催するとなれば、そこで商売の種が増えるというわけです。
政府機関が本来注力しなければならないのは、こういうことでは無いはずです。
例えば、ネイルであれば、行き過ぎて医療行為に該当する施術を行わないように監視するなど、国民の安全を守ることであるはずです。
上記の話は実際にあった話で、このような資格の濫造を防ぐという意味から、
今後は法律による根拠のある資格以外、公的資格とは認めないし、公的資格のような名称を使うこともまかりならん。
地方政府なども勝手に職業資格を作ってはならない。
という声明を発表しています。
・・・と、上記のような理由が述べられており、至極真っ当な政策に思えます。
かなり画期的な規制緩和と言えるので、中国社会の仕組みが、また一つ新時代へ移っていく場面を目の当たりにしているのだと思います。
その意味では、今まであった国家職業資格が取り消されるというのはやむを得ないことだと思います。
ただ、問題になりそうなのは、2014年6月から始まったものが、2016年末には整理を終えてしまうというちょっと性急すぎるスピード感です。
その職業資格を取得するために技術を学んでいる人や大枚叩いて職業資格を取得した方、あるいはその職業資格の指導を生業としてきた方の生活は一体どうなるのか?という疑問が出てきます。
日本だったら、20年前ぐらいから検討を始めて、法律出来るまで10年。移行期間を5年ぐらい設けますか・・・的な対応をするでしょうね。
もっとも、社会主義国家の中国においては、こういう性急さはよくあることです。
突然、「再開発が決まったから、この土地を出て行け」と地方政府から告げられて、困る庶民・・・なんてドキュメンタリー番組が放送されていたりしますが、まさにそれと一緒です。
中国では良くあることですし、そのスピード感ゆえに驚異的な経済成長を実現してきたので、何とも評価の難しいところではあります。
<茶業関連資格はどうなる?>
で、本題です。
昨年12月に発表された職業資格の一覧を見てみますと、茶業関連の資格は以下のようになっています。
・茶藝師 → 国家職業資格ではなくなった
・評茶員 → 国家職業資格として、とりあえず残る。認定は供銷行業技能鑑定機構などに変更。
・茶葉加工工 → 国家職業資格ではなくなった
・茶園園芸工 → 国家職業資格ではなくなった
評茶員に関しては、食の安全、公正な取引に寄与する資格ということなのか、今のところは残されたようです。
しかし、茶藝師などについては、国家職業資格から外れました。
「国家職業資格から外れるということは、どういうことか?」ですが、人力資源社会保障部の担当者などが話していることをまとめると、
1.茶藝師などの職業資格試験は今後、国家の名を冠しては行わない。
2.ただし、既に試験に申し込んでいる人(お金振込済)でどうしても受験したいのであれば、そのまま進めるよう、各部門に指示している。
3.既に受験をして証書の発行を待っている人の分は、そのまま進める。
4.職業学校などで卒業証書と労働資格証書のダブル発行をすることになっている場合は、卒業時に規定通り貰えるようにする。
5.既に取得した人の資格については取消後も有効なので、仕事はそのまま続けてよろしい。証書も有効なので、あなたの能力水準の証明書として使って構わない。
ということです。
最後の5番目が大事なところで、既に勉強した人の証書は無効になるわけではないようです。
ただ、資格自体は既に国家職業資格ではなくなっているので、今後、それが求められることは少なくなると思います(元々、日本国内での使い道は”自慢する””肩書きに付け加える”ぐらいしかありませんでしたけど)。
さらに、1のように資格試験は今後、国家レベルで行われることはないので、国家職業資格としてのステップアップの道は閉ざされる、ということです。
日本で暮らす日本人にしてみれば、茶藝師にせよ、評茶員にせよ、価値があるのは証書よりも、その資格を取得する過程で学ぶ中身の方だと思います。
「国家職業資格では無くなった」というのは、「国の資格だったから取ったのに」という方にはショックかもしれません。
しかし、国家職業資格で無くなった理由は、「茶藝師のプログラムがおかしいから」とか、そういうことではなくて、上記のように中国の社会体制の変化によるものです。あまりガッカリする必要は無いでしょう。
既にこの国家職業資格としての茶藝師は取得できない状態になっていますので、月日が経てば、「大分、前から勉強していること」の証明になるかもしれません。証書は大切に取っておきましょう。
<今後はどうなる?>
評茶員資格は国家職業資格として残ったので、今後も同じスタイルの評茶員養成講座が行われるようです。
が、茶藝師資格については、今後どうなるのかが今ひとつ、判然としません。
茶藝を一通り学べるような既に確立したプログラムがあって、教育機関なども全国各地に出来ていますし、取得済の人もかなり大勢いますから、ひょっとしたら後継となるような統一的な認定機関ができ、既存資格の引き継ぎが可能になるのかもしれません。
が、茶業界は以前より大きくなっていて、様々な思惑がうごめいています。
地域性の強い「茶藝」を1つの国家標準やプログラムで縛るのは無理筋では無いか?という声もあります。
地域ごとや流派ごとに分裂するという可能性も否定できません。
茶藝とか茶道って、大体そういうもんですからね。
そもそも、茶藝については、別に資格を取らなくても学べるものです。
日本の方にとっては、国家職業資格という看板がなくなった以上、資格取得というよりは、自分が目指したいと思う世界観を持った方のところで、茶藝を学ぶ時代になるのかもしれません。
もっとも、一部の機関などでは、引き続き、既存の茶藝師資格養成のプログラムで、初級や中級茶藝師のクラスを設けるところもあるようです。
その場合は、「一体、どこの機関が認定するのか?」「どのような講師が授業を担当するのか?」を詳しく見極めた方が良いと思います。
正直なところ、茶藝師の育成をしている機関でも、その担当講師の実力・カリキュラムには、かなりバラツキがあります。
もし、上記のような分裂状態になるのであれば、認定機関もバラバラになるので「そこの機関の認定では、あまり価値が無いよ」ということも出てくるかもしれません。
これから取得を考えているのであれば、このへんを納得いくまで吟味する必要がありそうです。
以上、2017年1月19日現在の情報をまとめてみました。
李克強首相は、今年に入ってからも今回の労働資格制度改革をさらに見直す意向を示しています。
まだ、しばらくは落ち着かない感じになりそうですが、「上に政策あれば、下に対策あり」が中国です。
将来、何が起こるか分かりません。
今後また新しいことが分かったら、別エントリーで紹介したいと思います。
にほんブログ村
まあ、中国らしいといえば中国らしい話です(^^;)