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カテゴリ:まるで日記まがい。
お通夜の前日、おばあちゃんは久しぶりに台所に立った。
足を悪くしてから、もう何年も自分で何かを作ることはなかった。 でも、死んだおじいちゃんが好きだった味噌汁を、最後に作ってあげたいと言うのだ。 冷え切った台所。仙台の3月は、春先とは言えまだ寒い。 心配する周りをよそに、気丈に振舞うおばあちゃん。 野菜を切る手元は、覚束ない。 でも、おじいちゃんとの日々を思い出すように、ゆっくりと、しっかりと…。 そして、静かに凍える部屋に、温かな湯気が立ち上った。 おじいちゃんの枕元、ご飯と共に、おばあちゃんの味噌汁が供えられた。 おばあちゃんは、私たちにも飲んで欲しいと、1人ずつに味噌汁をよそってくれた。 コートは着たまま、お椀を持つ手はかじかんでいる。 温もりを感じながら、そっと口元にお椀をあて、一口啜る。 それは…もう言葉にならなかった。 近くにいた弟と目が合ったが、同じ気持ちだった。 私と弟は就職し既に家を出ていたが、その味噌汁は紛れもなく、母が作る味噌汁の味だった。 おじいちゃんが好きだった味噌汁。 それは、おばあちゃんから母へ引き継がれ、私たちを育ててくれた。 芯から冷え切った身体を、温かな味噌汁が通って行く。 なんだか、その温かさが、まるでおじいちゃんのようで、おじいちゃんがそこにいるようで。 それまで我慢していた涙が一気に溢れ出て、もう止まらなかった。 あれから2年が経とうとしている。 私にも娘が生まれた。 もうすぐ4カ月になるが、生まれた頃と比べると、もうかなり大きくなった。 母乳だけなのに、ここまで大きくなるんだと驚いている。 おじいちゃんにも、またその後を追うように死んでしまったおばあちゃんにも、 ひ孫を抱かせてあげることはできなかった。 でもいつか、娘がもう少し成長した時に、2人の話をしようと思う。 温かな食卓で、味噌汁でも飲みながら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年01月09日 10時23分56秒
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