挨拶、コーヒーと共に。
『あっ、ありがとうございます。』簡単にお礼を言い、コーヒーを一口啜る。無言を自然と化す僅かな時間。熱くてまだ飲めないコーヒーに、少し長めに口をつける。「今日は寒かっただろ?」『えェ、午後は吹雪いていて…。』カップを置こうとする、右手が震えている。音が出ないように、左手を添え静かお皿の上に置く。4人がけのテーブル。目の前には彼女が座っている。「お腹が空いただろ?」『はい。』「ちょうど今、買い物してきたところだから。」『えっ、いいんですか?ごちそうさまです!』そんな会話を聞きながら、台所でお菓子の準備してくれている彼女のお母さん。目の前には彼女が座っている。隣には…彼女のお父さんが座っている。数分前まで娘は友達とスノボに行っている、と思っていた彼女のお父さんが隣に座っている。「ちょっと私、着替えて来るね。」ふいに彼女が席を立つ。彼女のお母さんは、台所でお菓子の準備をしてくれている。4人がけのテーブルには、兄やんと…数分前まで娘に彼氏がいることを、知らなかったであろう彼女のお父さんが座っている。4人がけのテーブルに、2人…。再び…。再び、コーヒーカップに指をかけ、口元へ運ぶ。ゆっくり、ゆっくりと飲んだはずのコーヒーは、いとも簡単に胃袋へと流れ去った。