忘れもしない…
去年の今日、
あの真実を知ることとなる。
当直明け、上司から差し出された1冊の分厚いカルテ。
ページをめくる度に血の気が引いていく。
何がなんだかわからず、ただひたすらにページをめくる。
最後に見たものは1本の線と、その時の処置内容だった。
正直私の頭の中には処置内容など記憶としてない。
覚えているのは1本の線だけ。
『心肺停止』
処置の為、心臓は再び動き出すことができた。
結果的に呼吸器は外れ、意識レベルもある程度戻った。
そして、何の因果関係もなく数週間後、誤嚥性肺炎で亡くなった。
忘れもしない、長かった数週間。
忘れてはいけない、苦しかった数週間。
何度カルテを見に行ったことだろう。
何度血圧やサチュレーションや栄養状態、採血結果をチェックしたことだろう。
でも、私が眠っている彼女の部屋を訪れたのは、たった1度きりだった。
行かなかったんじゃない…行けなかった。
この後、既に病気だった私は、本当のスタートをきった。
自分自身と戦うために。
そして、歳老いた彼女の名前も、この先、一生、忘れることはないだろう。
来年の今日もまた、こうして思い出すのだろう。