読レポ第1185号 カール・ロジャーズ ジャンドリンとの相互交流から新たな考えが生まれる
読レポ第1185号カール・ロジャーズ~カウセリングの原点~著:諸富祥彦発行:㈱KADOKWA第2章 「カウンセリングにおける変化の過程」の発見 ジャンドリンとの相互交流から新たな考えが生まれる なお、1953年のロジャーズのこうした変化には、24歳下の教え子ユージン・T・ジャンドリンとの出合いと相互交流によってもたらされたものもすくなくないだろう。ジェンドリンとロジャーズの交流は、単に「恩師ロジャーズが弟子のジェンドリンを育てた」といった一方的なものではない。哲学専攻の研究者としてディルタイのElebenu(体験すること)概念に焦点を当て、「人間のなまの体験」について独創的な研究者をしていたジェンドリンは、ロジャーズのカウンセリングを見て、「まさに自分が研究をしている、なまの体験、ということがここで起きている」と考え懇願し、哲学専攻であったにもかかわらず異例の措置として、ロジャーズによってカウセリングセンターのスタッフとして受け入れられた。ロジャーズに対して「あなたのカウンセリングでは、こういうことがおきているんです!」と語る若き教え子ジェンドリンの話を聞く中で、ロジャーズのほうもみずからの臨床の中で起きていることの本質をより的確かつ精緻に理論化していけるようになった。両者の間にはこのようなきわめて良質な相互影響が見られる。 私も時折経験するが、きわめて優秀な教え子が私のカウンセリングの実際を見て「こういうことが起きているですよ!」と指摘してくれることがある。その言葉をきっかけに自分の実践で起きていることをより深く、本質的に理解していけるようになる、ということがたしかに私にもある。 50代前半で学者としてもカウンセラーとしても絶頂期にあったロジャーズと20代半ばの聡明な哲学者だったジェンドリン。両者の相互交流の中で、ロジャーズが78歳の時に書かれた『ア・ウェイ・オブ・ビーイング』(Rogers,1980)でも、ロジャーズは自分の考えの展開を示す時に、必ず「ジェンドリンのおかげで」「ジェンドリンによって」といった言葉を添えている。この意味で、ロジャーズとジェンドリンの仕事は分けがたく、二人で大きな意味のある「一つのこと」をなしとげた、と言えるような関係にあるといってよいように思われる。 自分の内側の内臓感覚的な体験の流れに深く触れた時に人は変化し始める、という個人の内的な変化と、それを促進する共感的な人間関係とは、ワンセットである。「自分の内側の、内臓感覚的な体験の流れに深く触れる、という変化」と、それを促す「共感的な関係」という切り離すことのできない「ワンセット」。筆者は、人間の変化に関する最も重要な理論と方法は、つまるところここに帰着するのではないか、と考えている。それほど人間にとって重要なワンセット。この「一つのこと」をロジャーとジェンドリンはなしとげていったのである。こうした本質的な理解に比すれば、エンカウンターとクライアント中心療法のロジャーズ、フォーカシングのジェンドリン、といった辞書的な区別は意味を持たない。と著者は述べています。 確かに、きわめて優秀な教え子のジェンドリンとの出合いはロジャーズにとっては、自分では気づかない客観的な変化を指摘してくれて、今のカウンセリングに大きな影響を及ぼしたようです。 ロジャーズは、24歳下のジェンドリンに対しても、対等な扱いをしたからだと思います。日本では、先輩や年上に対しては、対等な会話はなかなかできないのが現状です。 ロジャーズは、素直に24歳下のジェンドリンの指摘の言葉に深く耳を傾けたのだろう。 これは、ロジャーズがカウンセリング時にクライアントに深く、深く、受容する姿勢がジェンドリンの指摘を素直に聴ける姿勢になっているだろうな。 そうなるように、私も稽古の毎日にしないとな。 そして、ロジャーズの「自分の内側の、内臓感覚的な体験の流れに深く触れる、という変化」と、それを促す「共感的な関係」を肝に銘じていかないとな。