読レポ第2034 カール・ロジャーズ 後期ロジャーズの「直観」を生かしたカウンセリング(1/3)
読レポ第2034カール・ロジャーズ~カウセリングの原点~著:諸富祥彦発行:㈱KADOKWA第5章 ロジャーズのカウセリング/心理療法 後期ロジャーズの「直観」を生かしたカウンセリング(1/3) ロジャーズは70歳を過ぎた頃から、妻のヘレンの死に際しての神秘体験や、当時のワークショップの体験、同僚からの影響などにより、スピリチュアリティアルへの関心を急速に深めていった。中でも大きかったのは、娘のナタリーや同僚のマリア・ボウエン(Maria V.Bowen)と共におこなった大規模なグループでの体験だったのである。かなり大規模なエンカウンター・グループで、参加者全員が「一つ」になり、宇宙意識の一部であると感じられるような体験であったという。 ボウエンは、ロジャーズが最初に直観やスピリチュアリティについて語り始めたのは、グループのプロセスについて述べた次の言葉だったと言う。 グループの進行中のプロセスの中で、メンバー同士がますます心を通い合わせていき、一体感が生まれ、魂の集合的な調和(a collective harmonious psyche)が生まれてきます。これは、本質的にスピリチュアルな性質のものです。(Roges,1980) このような大規模なグループの体験や他のスタッフからの影響が、晩年のロジャーズをスピリチュアリティへと向かわせていった。 娘であり仕事の仲間でもあったナタリーも、当時の同僚たちからロジャーズが大きな影響を受けていたことを指摘している。 父は晩年とトランスパーソナルの領域に関心を抱き、スピリチュアルとか神秘的といった言葉を好んで使い始めました。このことは、マリア・ボウエンと私が父に与えた影響が大きいと思います。(Rogers,]N,1997) ロジャーズはこうした体験について、晩年の主著『一つの在り方』(rogere,1980)(A Way ofBeing)の「変性意識状態」という節において記している。ロジャーズにも大きな影響を与えた大規模グループに参加したあるメンバーは、その体験について、次のように語っている。 とても深いスピリチュアルな体験でした。このコミュニティのスピリットが一つになった(the oneness of spirit in the communiy)と感じました。私たちはお互いに話をしているのだけど、一緒に息をし、一緒にかんじていました。私たち一人一人に、強烈な「いのちの力(the power of the life force)」が吹き込まれたのです。それが何であるにしても。 「私が」とか「あなたが」といった普通はあるその壁がなくなって、その力の存在を感じることができたんです。自分の意識の中心であるような感じ。自分が何か大きな宇宙意識の一部となったような、そんな瞑想のような体験でした。この異様なまでの一体感中で、そこにいる一人一人が切り放された存在だという意識はすっかり消えてなくなっていたのです。 その後ロジャーズは、この体験は神秘的な性質のものであり、「私のセラピィやグループの体験が、何か超越的なもの、記述不可能なもの、スピリチュアルなものにかかわっていることは明らかだ」と述べている。こうした体験を積み重ねていくうちに、ロジャーズのセラピィ観にも変化が生じ始める。そして彼のセラピストとしての到達点ともいえる次の言葉を記している。 私は、自分のグループのファシリテーターやセラピストとしてベストの状態にある時、そこに、これまで論じてきたのとは別の、もう一つの特質があることを発見しました。私が自らのうちなる直観的な自己の最も近くにいる時、私が自らの未知なるものに触れている時、そして私が、クライアンの関係において幾分か変性意識状態にある時、その時私がするどんなことでも癒しに満ちているように思えるのです。 その時、ただ私がそこにいること(presence)がひとを解放し援助します。 この経験を強めるために私ができることは何もありません。けれど、私がリラックスして、私の超越的な核心に近づくことができる時、私は奇妙かつ衝動的な仕方で振る舞うことができるのです。合理的に正当化することのできない仕方、私の思考過程とはまったく関係のない仕方で。 そしてこの奇妙な振る舞いは、後になって正しかったのだとわかります。その時、私のうちなる魂が外に届き、他者のうちなる魂に触れたように思えるのです。私たちの関係はそれ自体を超えて、より大きな何ものかの一部となります。そこには、ふかい成長と癒やしとエネルギーとがあります。(Rogers,1980)と著者は述べています。 後期のロジャーズは、「直観」からスピリチュアリティなカウンセリングへと変容していた。それは、仕事を一緒にしていた娘のナタリーや同僚のマリア・ボウエンの影響も受けて、スピリチュアリティな大規模なエンカウンター・グループでのカウンセリングへと変容していった。 「自らのうちなる直観的な自己の最も近くにいる時、私が自らの未知なるものに触れている時、そして私が、クライアンの関係において幾分か変性意識状態にある時、その時私がするどんなことでも癒しに満ちているように思える」のです。 まさしく、ロジャーズは、トランスパーソナルの領域へと関心を向けていった。 私もスピリチュアリティ的なことは、あると思っています。すべてが科学的に解明などできでいませんし、科学的にすべてが解明できるとは思っていません。今の紅麴問題などが良い例です。 そのスピリチュアリティ的なことの一つが、ロジャーズが言っている「直観」だと私は思います。最近の日本でもメンタ関係の本でも「直観力」を唱えている人もいます。実は、学びの中にも「非認知力」が、これからAI社会には重要だと言われて、数字化できない言葉化ができない「直観力」がこれから必要と言われています。