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2008年07月31日
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カテゴリ:代書屋の事件簿
行政書士という
法務手続き事務所をしている関係上、
遺言や相続の相談を受けることがあります。

依頼者は、
ご自分の財産を遺言書という形にして
相続人に伝えたいという方ご自身だったり、
遺言者(被相続人)の死後、
相続財産を実際の譲り受ける
子どもさんたちだったりします。

遺言をする財産は、その殆どが不動産なのですが、
それと共に、預貯金や株式、その他動産等を含めて
遺言対象物件とすることもあります。

最近は、経営されていた会社の株式を相続させる、
というケースも増えて来ました。

特に、遺言者の所有する不動産に関しては、
未登記物件や登記と実態とが著しく食い違う等々、
後日問題となる案件がある場合が多く、
正式に遺言はしたものの、
登記手続きが出来ないことになっては困るので、
遺言対象不動産の調査には特に気を遣います。

遺言制度は、人の生前における最終の意思を尊重して、
死後においてその実現を図る制度です。

そして、それらの遺言対象物件を、
遺言書というカタチに正確に纏めあげるのが
私たち法務事務所の仕事なのです。


ところで、十年以上前に依頼された遺言手続きは、
一風変わったものでした。

所有する不動産は全くなく、預貯金が少々。
その預貯金を兄弟平等に分けるという
内容的にはきわめてシンプルなものでした。

「何故、遺言までするのだろう..」

素朴な疑問を持ちながらも、
自筆証書遺言作成の文案検討等の
お手伝いをさせていただいたのでした。


それから何年か経って、
「自筆証書以外に、金庫があるのですが..、」という
相続人のひとりからの電話があり、
「これは厄介な事件になるかもしれないなぁ...」と思いました。

「遺言書の検認」、
「金庫は封印のある遺言書等に該当するのかも..」等々、
民法第1004条の条項がぐるぐると頭に思い浮かびました。

遺言書に基づく実際の相続手続きは、
法務事務所の業務上よくある話なのですが、
封印された金庫の立ち会いは全く初めてのケースです。

一体どういうことになるのか...、
私は、緊張しながら、依頼者のもとに出向きました。

行ってみると、
相続人である兄弟三人が見守る中、
鍵屋さんが金庫に向かって、
汗だくで開けようと取り組んでいる最中、
という状況でした。

遺言者の奥さんは既に死亡しており、
相続人である兄弟は三人。

父親が大切にしていた金庫の前で、
とりあえず、法定相続人である兄弟全員立ち会いのもと
金庫を開けることにしたようでした。

「自筆で書かれた遺言書の用紙に
そちらの事務所の名前が書かれてあったので、
何か経緯がわかるかもしれない」
と思って連絡をいただいたのでした。


金庫はとびきり頑丈で、
はじめは相続人たちで開けようとしたようですが、
ビクともしなかったのでした。

仕方ないから鍵屋さんを呼んで
開けて貰うことにしたようですが、
それでもなかなか開きませんでした。

開かない金庫を前にして、
相続人である兄弟三人は、
何となく子どもの頃の話を始めました。

その父親は昔からすごく厳格な人で、
子どもたちの前では喜怒哀楽をほとんど見せず、
「笑った顔は殆ど見たことがなかった」、という話しや、
「家族で旅行なんて本当に行ったことがなかったねぇ」、
子育ては死んだ母親に任せっきりだったようで、
「子どもの頃は真から父親が怖かった」、
というような話しが、どんどん出て来ました。

一番下の弟は、
「親父はしこたま溜め込んでるんじゃねえか?」
みたいなことを言い出して、
真ん中の弟も、
「そう言えば、親父が夜中に金庫の前で
ニヤニヤしながらガサガサやってんのを見たことがある」
とか言い出しました。

法務事務所に連絡をくれた長男も、
金庫の中身にぼんやりと期待を抱いたような表情でした。


その時に鍵屋さんが、
「カギ、開きましたよ」と言いました。

兄弟三人は、
複雑な思いで金庫の前に行きました。

そして、長男が、
ガチャンと金庫のドアを開けたのです。


先ず中から出て来たのは、
黄色く古びた百点満点のテスト用紙でした。

それを見た一番下の弟が、
「アッ! これ、俺のだ!」と言って、
長男からそのプリント用紙を取り上げました。

次に出てきたのは、体育大会の上位入賞の表彰状。
次男が「俺のだ!」と言い出して、
長男からその表彰状を取り上げました。

その後に古びたネクタイが出て来ました。
みんながポカンと見守る中、
「見覚えがあるなぁ」と思った長男は、ハッと気付いたのです。

「アッ! これ、俺が初めての給料で、
親父に買ってやったネクタイだ!」


その後に次々と昔の品物が出て来て、
金庫の一番下から茶色の封筒が出て来ました。

茶色の古びた封筒をそっと開けてみると、
それは、子供の頃、
家の前で家族全員で撮ったセピア色の記念写真でした。

それを見た三男が泣き出しました。
次男も何だか泣き出しました。

長男は、
「何でこんなものが金庫の中にあるのだろう..」、
「相続財産になるようなものは無いなぁ」、
と思ったそうですが、
少し経って、中に入っていたものの意味が次第に理解出来た時、
その写真を持ちながら肩震わして泣き始めました。
「号泣」という言葉がぴったり当てはまるような状況でした。

居合わせた行政書士である私は、
やっかいな事にならずにおさまって、
ほっとすると同時に、
私たち法務事務所の仕事のポジションが、
何となくわかったような気がしました。

それと同時に、
「財産」とは一体何なのだろうと、
つくづく考えるきっかけを与えてくれた事件でした。





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最終更新日  2008年07月31日 05時18分35秒
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