放課後・東野圭吾
☆放課後・東野圭吾・講談社文庫、1988年7月15日、第一刷発行・1985年9月、講談社より刊行・第31回江戸川乱歩賞 受賞作品☆あらすじ私、前島は、地元の国立大学工学部を出て某家電メーカーに就職するも、地方への転勤を契機に4年で退職。現在は、私立の名門、精華女子高校の数学教師となった。アーチェリー部の顧問。前の会社で知り合った妻の裕美子とは、3年前にささやかな式を挙げた。結婚以来3年間、それなりに平凡な生活を送ることが出来たと思っていたが、結婚して半年くらい経ったころ、妻が妊娠した。目を輝かせて報告する彼女に、父親になるのが煩わしいと考える彼は「堕ろすんだろう?」と、冷たく言い放った。この件に関しては、妻は自分を許していないかもしれないが、それも仕方がないことだと思っていた。間も無く、裕美子は外で働きはじめた。教師になって五年。ようやく2年ほど前から生徒達の視線に慣れては来たが、彼女達の行動には驚かされることの連続であった。また、教師という人種の神経も未だに理解出来ず、別の生き物の様に見えることが多い。学校と言うところは分からないことが多すぎる。ただ一つだけはっきり分かっている事は、私の回りに私を殺そうと言う人間がいることだ。一度は、ホームから突き落とされそうになり、次には危うく感電死させられるところだった。3度目は、頭上からゼラニュウムの鉢が落下して来た。9月12日密室状態の男性用更衣室で、生徒指導部の教師、村橋が死んだ。死因は青酸カリによる中毒死。他殺と見た警察は、多数の捜査員を捜査に当たらせた。9月22日体育祭。仮装行列の最中、酔っ払いのピエロに扮した教師の竹井が、一升ビンの「酒=水」を飲んだ直後、大勢の人が見守る中、もがき苦しみながら死んだ・・・。本来なら前島がピエロに扮する筈だったが、乞食役の竹井のいたずら心から直前に入れ替わっていた。誰もが竹井は前島の身代わりに殺されさのだと思った。9月24日(火)この日から全てのクラブ活動が休止されることになり、6時を過ぎて前島も帰宅することにした。駅までは刑事が送ってくれた。自宅近くの駅の改札口を出ると、既に暗くなり始めていて、歩いている人の数もまばらだった。犯人は誰なのか、また動機は・・・と考えにふけっている彼の背後から、ヘッドライトをハイビームにした車が猛烈な勢いで彼に向って突っ込んで来た。逃げ惑う彼に向かって何度も執拗に・・・。前島を追って来た教え子の高岡陽子の姿を見て、ようやく車は走り去った。彼女によると、車は「赤いセリカ」だという。10日7日密室のからくりに気づいた前島は、真犯人が自分の身近な生徒だという結論に達したが、どうしても殺害理由が分からなかった。放課後、アーチェリー部のリーダー、ケイを練習に誘った前島は、弓を持ち上げセットアップしようとした彼女の背中に「教えて欲しいことが有るんだ。怖くなかったのか………人を殺すのは?」と呟くように言った・・・。全てを知った彼は、ようやく一つの出来事は終った、と思った・・・。その夜、彼は、何もかも忘れたくなって、アルコールを無茶苦茶に胃に流し込み酔った。自宅近くの公園の公衆電話から、妻の裕美子に、自分の居場所と間も無く帰ると伝えて電話を切った。睡魔に襲われながらも、よたよたと足を投げ出しながら歩き出し、ようやく公園を出た。その時、彼の目の前で一台の車が停まった。ヘッドライトを点けたまま、光をを背にして車から降りて来た男は、刃物を手に襲いかかって来た。路上に倒れもがき苦しむ前島の耳に、車の中から「芹沢さん早く」という声が聞こえた。それは紛れもなく妻の裕美子の声だった。前島を残して、あの夜と同じ「赤いセリカ」が走り去った・・・。♣︎高岡陽子学校一の秀才。複雑な家庭環境で育つ。「クール」と評される前島の「人間性」に触れて以来、彼を慕っている。