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2016.08.02
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新装改訂版

文庫本
(手前が肥後橋、背景が大同生命ビル)

小説 土佐堀川・古川知映子
(女性実業家・広岡浅子の生涯)
・1988年10月5日 初版発行
・2015年10月11日 15刷新装改定版
・NHK 平成27年度後期朝の連続テレビ小説「あさが来た」の原作、フィクション

★あらすじ
嘉永2年(1849)、浅子は三井11家の一つ京都の豪商油小路三井家に、6代目三井高益の娘として生まれた。幼い頃から、商いに長けた三井越後守高俊の奥方、殊法大姉の血が流れていると言われて育つ。「殊法大姉は一切の無駄を省いて節約をした」と、父 高益から聞いた浅子は「うちはそんなけちなことはせえしまへん。ぎょうさん儲けてぎょうさん使うてやるのだす」と言った。商売上手は、1に才覚、2に算用、そして3には始末である。高益が教えたいのは吝嗇ではなく、一つのことに徹する大切さであった。浅子は、2歳にして既に大阪の豪福両替商加島屋広岡信吾郎へ嫁ぐことが決まっていた。高益が59才で没し、浅子は高益の養嫡子、高喜の保護下におかれることになった。(高喜は先を見る目に優れ、三井11家の統括機関、三井大元方も務める。三井銀行を設立する。浅子の商売の師でもあった)

その時代、幕府の財政は逼迫し、幕府からの御用金の割り当てが立て続けになり、天下の豪商といわれている三井の内情も想像以上に苦しかった。「世の中の変わり目には必ず新しい商いが出てくる。先への判断をするためには情報集めが先決だ」と、父高益に代わり義兄の高喜も浅子に話して聞かせた。

名門両替商天王寺屋五兵衛へ嫁ぐ姉の春と共に、17才の浅子も婚儀のため伏見から30石船に乗り淀川を下った。浅子は嫁いですぐに、このままでは早晩、立ち行かなくなるであろう加島屋の内情を見てとった。
じっとしていられない浅子は、姑にことわり、小藤を供に堂島の米市場見学に出かけた。その夜、三井から持ってきた本を一冊取り出し、信吾郎が呼びかけても返事もせずに夢中で読んだ。そして「本気になって商い覚えたい思うのどす。教えておくれやす」と、信吾郎の前に両手をついた。商いの状態が知りたい浅子は信吾郎に頼み込み、加島屋の古い大福帳を手に入れた。簡単には収拾がつきそうもないが整理してみようと、浅子は算盤を入れ始めた。最初は協力してくれていた信吾郎だったが、途中で音をあげてしまい、先に奥の座敷に引きとった。浅子はとても眠る気にならず、夜が白むまで算盤を入れ続けた。
堂島へ行ったその日から加賀屋の若御寮はんの噂が広がり、中には狂人扱いしかねないような噂をする同業者もいた。加島屋は既に大阪一の豪商だが、自分の代に日本一の商人になれないものか。浅子の心の中にむらむらと敵愾心が燃えさかっていた。浅子の商いへの思い込みは並大抵のものではなく、いつの間にか汚名も消え、流石に豪商三井から嫁入っただけのことはある、という賛辞が聞かれるようになった。

慶應3年の暮れ、商用で大阪へやってきた高喜が、加島屋へ立ち寄り「浅子、京都から討幕の兵が出陣することになるようや。三井では『賭け』をしたいと思うとる」と言い、詳細を述べずに帰って行った。義兄の話が頭から離れず、「戦があるてほんまやろか?」と問うても、夫の信吾郎だけでなく天王寺屋へ嫁いだ姉を訪ねてみても、危機感がまるで感じられない。やがて浅子の悪い予感が的中し、鳥羽伏見の戦いが勃発、幕府は敗北、将軍慶喜は大阪城から海路江戸へ逃れて行った。
二条城へ呼び出された大阪京都合わせて130人の商人に、官軍から討幕の為の軍資金として300万両用立てせよとの要求があった。商人たちは出せないものは出せないと出し渋り、軍資金が集まらないまま、間も無く徳川討伐の軍が京都を出発したという報せが入った。道中の御用金掛かりとして三井、小野、島田の3豪商が従った。浅子の実家の三井は、まさに官軍につくというはっきりとした態度をとったのであった。
三井の大元方(三井11家の統括機関)が、まさか時の趨勢を読み違えるはずはなかろう。そうなると加島屋の先行きの不安がいっそう募ってきた。浅子は京阪の商人と歩調を合わせている加島屋の先が心配だった。
結婚からわずか3年後、浅子が嫁いだ加島屋は、明治維新とそれに続く廃藩置県によって存続の危機に直面したのである。

・・・・・・・
大同生命公式サイト、「広岡浅子の生涯」によりますと、
加島屋の最初の危機は、傑物といわれた当主・広岡久右衛門の死(明治2年・1869年)、それに続く廃藩置県(明治4年・1871年)だった。加島屋の経営を担うことになったのは、浅子と、夫・信五郎、そして加島屋の九代目当主となった広岡久右衛門正秋。全員がまだ二十代の「若き経営者たち」による新たな船出であった。
とありました。
・・・・・・

その後の浅子の獅子奮迅ぶりはすさまじく、周囲の反対にも拘らず決死の覚悟で始めた炭鉱事業は鉱山火災の危機も乗り越え、経営を軌道に乗せた。大阪梅花女学校の校長・成瀬仁蔵の「日本女子大学校を設立したい」いう目標に賛同し、女子大学校設立に協力することを決意。自ら先頭に立って資金づくりに駆け回り、やがて「日本女子大学」は開校した。
浅子に理不尽な恨みをもつ没落した万屋の主人に刺されるという事件が起きた。やっとのことで命を取り留めた浅子は、生命保険の大切さに気づき、加島屋本家が運営し経営が思わしくない朝日生命を他社と合併させさ、経営不振を脱するしかないと考えた。だが、加島炭鉱、加島銀行、広岡商店、朝日生命保険、尼崎紡績等の社長及び重役たちの出席で開催された加島屋事業全体会議で、2/3以上が反対、否決された。その後、一対一で時間をかけた粘り強い浅子の説得が功を奏し、僅差ではあるが議決に持っていくことができた。
浅子が合併を打診して回り、脈がありそうな各社と話し合いが進められた。二社に動きそうな気配が見えたとき、締めくくりの交渉役には保険事業に経験の深いしっかりした男性を立てるべきと考えた浅子は、朝日生命重役の中川小十郎を立てた。問題を一つずつ解決し、ついに実現可能なところに漕ぎつけた。
新社名は、小異をを捨てて大同につく、という故事にのっとり「大同生命」という名が選ばれ、初代社長は加島屋本家の広岡久右衛門正秋が選ばれ、これまでの加島屋関連事業の中で最大のものとなった。

大同生命が発足したその年、浅子の長女亀子に、子爵一柳家の次男恵三が婿養子として迎えられた。東京帝国大学法科出身の逸材で、加島銀行と大同生命に関与し勤務することになった。
加島屋の事業は頂点にあった。大同生命設立の成功、鹿島銀行も広岡商店も全国に支店が増えている。九州の炭鉱も買収時に比べ出炭量が格段に伸びていた。かつて経営の危機にあったことなど、もう記憶している人も少なかった。
けれど、このとき既に足元には予測しない不幸が忍び寄っていた。日に日に具合が悪くなってゆく信吾郎を励まそうと、浅子は彼が以前から話していた御殿場に別荘を建てようと考えた。別荘の土地は3000坪、どの部屋からも富士が見えるように設計された。広い芝生の中心には、信吾郎の提案で、一本の黄楊(つげ)の木が植えられ、傘の形に作られていった。明治37年6月、浅子が56才の初夏、広岡信吾郎は加島屋の最盛期を見た上で没した。
亀子と恵三夫妻に加島屋ののれんを渡すと決めた浅子は、亀子に「御殿場の別荘を生かして、若い人と一緒に勉強したいわ。日本の女性のこれからの生き方を考えて討論したい思うてるんや」と言った。
その後、乳癌を発病し手術を受け療養中の浅子の元に、本家の正秋が急逝したとの報せがはいった。信吾郎のたった一人の弟の死に、浅子は肉親以上の悲しみを覚えた。

大同生命の重役会議で社屋移転についての決議が満場一致で議決され、土佐堀川肥後橋前、加島屋の敷地に近代的なビルが建設されることになった。設計はウィリアム・メレル・ヴォーリズ。近世ゴシック風の重厚なビルであった。設計まで1年、約3年間の歳月をかけて建築がなされることになった。

華々しく大同生命ビルの竣工式が行われることになった。落成式当日、浅子は金ラメ入りの黒レースの豪華なロングドレスを身にまとい、胸高くに造花をつけていた。銀髪の髪が黒の洋装によく似合い、来賓と一緒にテープカットに加わった。浅子は表彰を受けたあと演壇に上がり無事挨拶の言葉を言い終え、控室に戻りソファーに深く身を沈めた。そしてそのまま意識を失い、大正8年1月14日、眠るように息を引き取った。数えで71才の生涯であった。
大正14年 6月、大同生命はかつて加島屋の屋敷があった大阪市西区土佐堀通1丁目1番地(現大阪本社所在地)に移転した。

♣︎主な登場人物
広岡浅子、嘉永2年(1849)
京都の豪商油小路三井家(三井11家の一つ)に、6代目三井高益の娘として生まれる。幼い頃から商いに長けた祖先の血が流れていると言われて育つ。大阪の両替商、加賀屋広岡家に嫁ぎ、自ら先頭に立って商いの道に邁進。筑豊の炭鉱事業、銀行設立、大同生命設立と大仕事を成し遂げた後には女性への高等教育の普及、廃娼運動などにも尽くす。

広岡信五郎
両替商加賀屋の後継者で、浅子の夫。人柄は穏やかで若い頃は趣味三昧の生活を送る。猛進する浅子を温かく見守っていたが、やがて浅子に劣らず商売の道に邁進するようになる。

小藤
浅子の実家、油小路三井家の腰元。浅子が嫁ぐ際、世話役として一緒に店を移る。


浅子の異母姉。浅子が加賀屋に嫁いだ時、ともに大阪の今橋天王寺屋に嫁ぐ。天王寺屋は大阪で最も伝統のある両替商であったが、維新の後、落魄する。

広岡亀子
浅子の長女。娘婿を迎えて夫婦で加賀屋の屋台骨を支える。

広岡正秋
信五郎の弟。加賀屋が銀行業に乗り出した際、初代の頭取になる。

三井高喜
三井高益の養嗣子で浅子とは26才離れた義兄。高益亡き後は浅子の父親がわりを務め、浅子の商売の師でもあった。先を見る目に優れ、三井11家の統括機関、三井大元方も務める。三井銀行を設立する。
22
三井高景
高喜の長男。浅子とは1才違いで、幼い頃からきょうだいのようにして暮らす。後に三井家の当主となり三井鉱山社長などを務める。

成瀬仁蔵
大阪梅花女学校の校長。若い頃にアメリカ留学の経験を持ち、女子の高等教育発展に力を注ぐ。貧しいながらも高潔な人柄。日本女子大学校設立という目標を得て、浅子にも協力を仰ぐ。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964)
米国カンザス州生れ。1905(明治38)年、英語教師として来日。1908(明治41)年、「ヴォーリズ建築事務所」を設立し、建築設計の事業を開始する。学校・教会・病院・商業建築など、第二次世界大戦までに全国で千を超える建築に関与したとされている。代表的な建築物には、大丸心斎橋店(大阪市中央区)、山の上ホテル(東京都千代田区)、明治学院礼拝堂(東京都港区)などがあ。ヴォーリズは旧肥後橋大同生命本社ビル(大阪市西区)をはじめ、大同生命の本・支社11棟の建築を手掛けた。妻・満喜子は、一柳子爵家の三女、大同生命第二代社長・広岡恵三の妹。

♧作者:古川知映子
東京女子大短期大学英文科、同大学文学部日本文学科卒。国立国語研究所で『国語年鑑』の編集に従事、その後東京都内の私立高校教諭を経て、執筆活動に入る。著書に『赤き心を』「風花の城』『一輪咲いても花は花』『氷雪の碑』『飛IIより愛を込めて』『性転換』『炎の河』など。日本文学科協会会員。ヴィクトル・ユゴー文化賞受賞受賞。潮出版文化賞受賞。

大同生命公式サイト広岡浅子の生涯





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Last updated  2016.08.03 20:27:21
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