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☆キャロリング・有川 浩 ・幻冬舎 ・2014年10月25日 第1刷発行 ♧クリスマスにもたらされるささやかな奇跡の連鎖―。有川浩が贈るハートフル・クリスマス。 大和俊介の勤める子供服メーカー「エンゼル・メーカー」の社長西山英代は5人の社員に頭を下げて詫びた。主要取引先である大型量販店の閉店で打撃を受け、回復が叶わないまま年越しを待たずに12月25日をもって倒産することになったのだ。 子供の頃から、大和俊介は父親の暴力が絶えない家庭で育った。くだらない理由で難癖をつけ、父親は母に暴力を振るった。その間、俊介はなす術もなく息を殺して納戸に隠れていた。小学生になり隠れるには体が大きくなり過ぎた俊介にも、父は暴力を振るうようになった。そんなとき、いつも俊介を案じてくれたのは、母の友人である西山英代夫婦だった。惜しみない愛情を注いでくれる2人の存在はいつしか俊介の心の支えになっていた。やがて中学生になり力がついた俊介が母を庇おうと止めに入ると、父は俊介にも暴力を振るう様になった。俊介が抗うようになり暴力はますますエスカレート、部屋は以前にも増して荒れる様になり、母と2人で深夜までかかって黙々と片付けた。そんなとき、俊介は自分が母を守ろうとしたことを分かってくれているのだと思っていた。だが、母は「お父さんにそっくり。まるでお父さんが2人になったみたい」と俊介を責めたのだ。 数日後、父が俊介に暴力を振るい始めたとき、母の言った言葉が脳に突き刺さり、振り上げようとした俊介の拳は力なく緩んだ・・・。無抵抗の俊介に父の激しい暴力が続き、救急車で運ばれた俊介が目醒めたとき、彼はベッドに寝かされ点滴の管が繋がれていた。母の姿は無く枕元には英代がいた。 精密検査を受けて家に帰ると状況は一変、俊介の暴力で両親はずっと悩んでいたことになっていた。親戚ぐるみで不祥事を恐れた父方の祖父母が乗り込んできて、表向きは俊介の家庭内暴力を原因とする家庭不和とし、暴力癖のある父親が取り返しのつかないことをする前に嫁と息子を引き剥がしてしまった。俊介に泥を被せる代わりに母は充分な養育費と慰謝料を受け取った。やがて母は、俊介さえ暴力に走らなければ一生我慢する覚悟は出来ていたとのにと離婚したことを嘆き続けるようになり、俊介が高校に進学してしばらくたった頃、別れた父と再婚することになったと告げた。父親の姓を名乗るのを拒否して俊介の一人暮らしが始まった。「困ったことがあったらいつでも言ってきてね」そう言ってくれたのは、母ではなく西山英代だった。思いを裏切られ過ぎると、両親は勿論のこと、英代の顔すらも見たくない日が続いた。誰の顔も見たくない。人と関わることが嫌になる。鏡の中から見返す俊介の目はますます荒んでいった。 そんなある日、母から西山のおじさんがなく亡くなったという連絡があった。駆けつけた俊介を喪服を着た英代が出迎えた。事業を拡大したばかりだったエンゼル・メーカーは、規模を縮小して子供服メーカーにシフトして英代が受け継いだ。アルバイトとして手伝っていた俊介は、大学卒業とともに社員となった。 俊介が入社3年目の年、2人目のデザイナーとして折原柊子が入社して来た。気持ちがしっかり乗った柊子の真摯な話し方が英代に似ていると気が付いたとき、一気に親近感が増して打ち解けた。付き合って3年ほどで自然と結婚の話が出たが、子供のことで感覚の違いが表面化。「俺、子供苦手だし」と言っても彼女は「えー、何で。子供可愛いじゃない」という。優しい両親に大事に育てられた彼女には自分の感覚は分からないだろう。柊子に説明しなくてはならない自分の境遇が面倒くさくなった。彼女と自分は全く違う場所で生きている生き物なのだと思い知った。きっと自分たちは遠からず終わる、そう感じた。そしてその通りになった。 致命傷は結納のことだった。両親には自分の結婚に関わって欲しくない。どうしても柊子が気になるというのなら親と縁を切るしかないという俊介の考えを柊子に理解してほしいというのは無理な話だった。堂々巡りの日々が続き、俊介は「ごめん、別れよう」といい、まるで逃げるように別れた。 英代は俊介に「そろそろ2人からいい話が聞けるかと楽しみにしてたんだけど・・・。会社がなくなれば同僚でもいられなくなるのよ」といった。また柊子には、俊介が自分で話せなかった彼の生い立ちを話した。2人のことを見て見ぬ振りをしてくれていた同僚のベンさんは「2人は良い組み合わせだったんじゃないの」という。2人の言葉は俊介の胸に響いた。けれど柊子はもう手の届かない人だった。 エンゼル・メーカーが事業の一環として行っている学童保育の子供達も次々と他へ移って行き、最後のクリスマスの日まで残るのは、6年生の田所航平1人だけとなった。航平の両親は別居中で、航平は母の転勤に伴い外国へ行くことになっていた。彼は出発の前に何とか両親を仲直りさせて、また一緒に住みたいと考えていた。一人で横浜にいる父に会いに行こうとする航平の父親探しに柊子が巻き込まれ、捨てておけなくなった俊介も車での送迎をする様になり、俊介と柊子は共に過ごす時間が増えた。地上げ屋絡みの事件に巻き込まれた柊子と航平が誘拐されるという事件が発生した・・・。それは神様が2人にくれた ささやかな奇跡の始まりだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.08.19 20:16:53
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